B5版

プロミシング・ヤング・ウーマンのB5版のネタバレレビュー・内容・結末

4.6

このレビューはネタバレを含みます

めちゃくちゃ面白かった。
下地が深刻で悲惨な話なのにコミカル、ポップな要素で軽やかなスリラーに着地させた監督の確かな技量を感じた。
これ初長編作ってマジですか。

「他の野獣共とは違う善人の俺」から始まるエセラブコメの導入からしてもう最高。
theOCのセス・コーエン役だと気づいてなお面白かった。
他のキャストもどうやら米国の人気テレビドラマより抜擢されたそうで、キャスティングからメタ的に物語を楽しむ要素で茶目っ気を出すところも良い。
また、全編通して暴力シーンの搾り方といい、グロテスクな加害者達の友情と被害者の身を呈した友情の対比の構図といい、演出意図が明確でクレバーな印象でした。

前途有望な男のために女は犠牲になれ、というどこかしこで耳にする常套句。
片方の前途という曖昧なもののために、もう片方の傷は見て見ぬ振りされる。
それでもNot all menだと自らを洗脳するように繰り返す男の欺瞞を本作は容赦なく描く。
男性への糾弾が多い映画だが、なにも男社会へのリベンジだけが主人公の本当の目的でないことは、
自分の罪と向き合った弁護士の存在に驚き、そして赦しを与えることからもわかる。彼だけはニーナを忘れていなかった。


誰も「あの子」を忘れないで。

夜な夜な似たようなクズに罰を下す中で、諸悪の根源への復讐を練る中で、
主人公の本当の望みは死者の為の敵討ちではなくて、痛みを分かち合い忘却に立ち向かう弔いだったのかもしれない。
しかし過去が発掘されてしまったからには、もうそれだけでは終われなかった。

一人の男に罪を贖わせるために、二人の女が犠牲となる構図は悲しくなるほど不公平で、今作は紛れもない悲劇の話だ。
そしてフィクションじゃないこの世の中に「あの子」は一体どれだけいるんだろうと思うと、観賞後も遣り切れなくなった。

他者の存在をコンテンツとして弄ぶ一方、簡単に過去に葬る傲慢な生者への死者からの復讐。
みんなせいぜい忘れた過去から報復されないことを震えて祈ろうね。
B5版

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