平野レミゼラブル

るろうに剣心 最終章 The Beginningの平野レミゼラブルのネタバレレビュー・内容・結末

4.2

このレビューはネタバレを含みます

【終わりの始まり。始まりの終わり。そして人斬りは流浪人に――】
下手すりゃ『The Final』以上に期待を抱いていた『るろうに剣心』時系列最初期にして堂々の完結編。表記的にはややこしいけど『The Final』で本編完結させて、番外編みたいな感じでその始まりである『The Beginning』で第1作に繋げて円環の形を成させるの良いよね……!本当に表記的にはややこしいんだけど……!!

そもそも『The Final』内での回想という形で結構内容をお見せしていた『The Beginning』の何を僕は期待していたかと言うと、そりゃもうこの実写の座組で放たれるファンタジー幕末の世界観ですよ!!
ただでさえ、炎を出したりする殺人奇剣や、空高く舞って神速で斬りかかるトンデモ剣術・飛天御剣流、それに素で対抗する幕末最強軍団新選組が闊歩しまくっている時点でどうかしている時代だったワケですが、原作本編で見せた幕末ってほんの一端なんですよね。
それこそ再筆版で和月先生が設定した幕末には「人を斬りすぎて人でなくなり時間移動のような動きを見せる岡田以蔵」や「風貌と技の性質から抜刀斎と混同されて内心迷惑に思っている河上彦斎」などから成る四大人斬りに、「拳銃と北辰一刀流の剣を組み合わせた独自のガン=カタで攻撃力を220%向上させた坂本龍馬」などの魅力的すぎる幕末志士が跋扈しておりどれも実写で見たいものだらけ!!
さらに大友啓史監督もかつて大河ドラマ『龍馬伝』で三味線を掻き鳴らしながら浜辺で敵を次々と斬り伏せて無双する高杉晋作という外連味しかない絵面を大真面目にお出しした前歴があるとなれば、俄然期待が高まるというものです!!
正直なところ、十字傷の謎とか、剣心と巴の悲劇とかあらかた原作とかで観たんでほぼどうでもよく、一番期待しているのは原作にプラスしたスーパー幕末大戦部分!!『The Final』で因縁があった鯨波や闇乃武の無名異も掘り下げられるかもですしね!!そんな期待を込めまくって意気揚々と観に行きましたが……




あ…あれ……!?
四大人斬りは!?ガン=カタする坂本龍馬(演:福山雅治)は!?
浜辺で三味線掻き鳴らして無双する高杉晋作は!?
スーパー幕末大戦は……!?

えー……何というか勝手に色々変な方向に期待しすぎました……。いや、うん、これは誰が悪いってこんな風にトンデモ要素の方に期待しすぎていた俺が悪いです……
どちらかというとですね、剣心と巴の関係性の方にフォーカスを合わせており(そりゃそうだ)、殺陣自体もそれに合わせて荒唐無稽感は抑え(あくまで前作までと比べて)、全体的に殺伐かつ暗い雰囲気を持続させて落ち着いていた作品でした。
そんな中で摩訶不思議な人斬り集団や、ガン=カタする坂本龍馬なんて出るワケはなく、本当に真面目に追憶編をなぞって進行する真面目な作品です。なのでそこら辺を勘違いすると物凄い肩透かしを食らいます(盛大に食らったヤツの感想)。

まあスーパー幕末大戦は望みすぎたにしても、池田屋事件に関しては永倉のしんぱっつぁんが盛りに盛った池田屋解釈を採用してしまったのか史実・原作ガン無視のスーパー池田屋大戦と化していました。
なんたって、池田屋事件当日は土方歳三率いる別動隊で事件終結後に合流したハズの斎藤が序盤の内に参戦しています。いや、原作でも確かに池田屋帰りに何故か返り血浴びたりしていたけれども!(なお「北海道編」でるろ剣時空でも池田屋に参戦していないことがハッキリ明言された)

シリーズを追うごとに迫力を増している牙突ですが、今回は特に凄いですよ。
なんせ牙突一発で志士がフッ飛び、池田屋2階部分がドカンと破壊されます。

威  力  が  お  か  し  い

いや~もう、牙突の威力が爆弾と大差なくなってはいますが、1作目のふわふわ牙突から順当に進化している感じで良いですね~。まあ時系列的には逆なんですが。


また、やはり原作と異なり、抜刀斎も池田屋に急遽駆け付けており、到着寸前で逃げた望月亀弥太を仕留めた沖田総司と遭遇。そのまま人斬り抜刀斎vs沖田総司のドリームマッチに突入します。これは熱い!!
今回、殺陣が全体的にリアル路線で抑えめだった為、スーパーチャンバラアクションはここが最高峰となっていました。2人とも軽い身のこなしで神速の剣戟を繰り広げ、さらにグルッと空中で1回転しながら一太刀浴びせ、それをやはりグルングルン側転回避すると言った具合に動きが凄まじい!!まるでブレイクダンスを踊りながらチャンバラをやっているというワケのわからん動きで最高でした。
また、沖田が新選組の基本の型・平突きの構えを取ったり、必殺技の「三段突き」らしき挙動を何度かするのもちゃんとしています。

沖田総司のキャラクターも、亀弥太に対して「自害に見せかけて殺してあげますから安心してください」とニッコリ笑いかけながら斬り殺したり、抜刀斎との死闘が出来ることに心から歓喜する「再筆版」で描かれた人格破綻者めいたキャラなのが良い。ビジュアルも「月代ってダサいじゃん」派閥だった和月先生の意に反して従来の沖田のイメージである月代ですが、そこから前髪を垂らしてギリギリ落ち武者に見えないお洒落な感じに仕立てていてそこもツボ。
途中でお約束通り吐血して(察知されないように石灯籠の影で吐くという描写が細かい)、ピンチの中で斎藤達が助けに来ても「大したヤツじゃないですよ!」と減らず口を叩くのも解釈一致。僕の求めていたスーパー幕末大戦はこの一戦に濃縮されていました。


というか、戦闘シーンで言ったら冒頭からしておかしなことになってましたからね。
なんせ両手を縛られた状態で囲まれた抜刀斎が、なんと口に刀を咥えた状態で全員を斬殺する「お口で飛天御剣流」を披露しますから!!
いや、というかこれ…飛天御剣流か……?

でも、そんな尋常じゃない状態で襲い来る抜刀斎の恐ろしさや、次々斬殺されていく人々の無情っぷりがこれ以上なく描かれていて最高です。荒唐無稽過ぎるんだけど、ホラー映画調にこの虐殺を描いているから不思議と絵面に違和感がないのが凄い。口で刀を咥えるとかギャグでしかないのに、ちゃんと狂気の見せ場に仕立てていて、あまりの凄まじさに乾いた笑いが出てきました。

あとこの惨劇、TSUSHIMA藩邸内で引き起こしていますからね。藩邸内にターゲットがいるから、わざと不審者装って捕縛されて内部に潜入、そして縛られた状態からお口で飛天御剣流で鏖殺……
いくらなんでも無法が過ぎるぞ!!誉れはないのか!!
誉れは幕末に捨てました……

基本的に「不殺」の誓い前の人斬り抜刀斎状態なため、剣術の全てに容赦がないのが良いです。遂に情け無用残虐チャンバラが解禁されたってことで、京都のあちこちで文字通りの血の雨が降り注ぐ迫力が凄まじい。
これ言ったら、るろ剣の精神全否定なんで良くないんですけど、やっぱりチャンバラは切り捨て御免で血糊がブシャーって出た方が楽しいネ!!本当、何もかも台無しなんだけど!!

ただ、るろ剣一番のメインであるスーパーチャンバラアクションに関しては今書いた部分が大体全てでして、物語全体の総量としては不足気味です。
一応、終盤で闇乃武との決戦がありますけど、こちらはどっちかというと消化試合に近く、心身共にボロボロになっていく状態の抜刀斎を嬲り殺そうとしている絵面ってのは、そんなに面白くない。
むしろ、精神疲弊真っ只中、視覚聴覚異常でヨロヨロしている抜刀斎相手に全然攻めないどころか勿体つけて更に嬲り続ける辰巳の姿に違和感しかなく「はよ殺せや!!」とツッコミを入れたくなっちゃうのがマイナスすぎる……原作のムキムキ無敵流ジジイと違って、こちらは幕府隠密としてプロフェッショナルに徹していたから嬲り殺すような真似をするとも思えないんですよね……
となると抜刀斎がデバフ盛り盛りだけど、それでもうかつに攻め入れないくらいに強いとも解釈できますが「これだけデバフ盛った上でまだ勝てないとか闇乃武弱すぎない?」って気持ちになるのでやはり萎える。トリとなる戦いが一番盛り上がらないのは、本作最大の欠陥です。

要は、アクション主体の『るろうに剣心』は『The Final』が見納めというワケで、この『The Beginning』の一番のメインとなっているのは抜刀斎と巴の悲劇のロマンスなんですね。実際、「追憶編」の魅力はドラマ部分にあるので、そこは比重を間違っているとは言えないです。ガン=カタの坂本龍馬とか期待していた馬鹿がおかしいだけです。
実写るろ剣のドラマは、割ともったりしているというか、殺陣に反してテンポが遅くて正直微妙な部分が多いのですが、本作に限っては「追憶編」のダークでシリアスなねっとりした雰囲気にそぐう形ではあったのでこれはこれで良しといった塩梅かな。
大友監督特有のゆったりテンポは純正の時代劇に近しい作品のが則している感じがします。

また、「追憶編」には既にOVA版というメディアミックス作品がありますが、実写版でもところどころにOVAオマージュのような演出や描写が頻発されます。
特に池田屋以後、抜刀斎が巴と一緒に田舎に夫婦として潜伏する一連の場面が顕著で、

・京では殺伐としていた抜刀斎が、田舎では野菜を作りながら暮らして穏やかな表情になる
・これまでは何を食べても血の味しかしなかった抜刀斎が食事をして微笑む
・それを見た巴が「あまり美味しそうに食べられるので」と微笑む
・抜刀斎と巴が明らかにヤッている
・片貝が飯塚を不信に思うのが闇乃武アジト付近の山道
・辰巳が巴に対して幕府体制側での民の平和を語り「もう一つの正義」を体現しようとする
・同時に辰巳が巴を体よく利用はしたものの、巴の「復讐者としての業」を汲み取った結果にしている(少なくとも原作のように用済みになったら処分とかは考えていない)
・抜刀斎が結界の森に赴く理由を「巴を助けるため」から「飯塚に命じられて巴を斬りに行く」に変更
・闇乃武の面々が寡黙な仕事人と言った感じで、サイレント演出だったOVA版の印象に近い
・巴の十字傷の刻み方が偶発的事故だった原作版ではなく、巴自らが抱く情念を込めて自発的に刻んだOVA版解釈
・全てが終わった後に抜刀斎が巴の遺体と共に住居を焼き払って退去する

……と言った具合にOVA版と一致する符号に溢れています。
特に巴が十字傷を刻む理由が最重要項目で、ここは確かに取り落とした脇差がたまたま十字傷を刻んだ原作版よりも、OVA版の巴自らの意志で刻んだという解釈の方が美しく納得もいくので(強い想いを込めてつけた傷は治りが遅く一生残る設定)こちらを採用してくれたのは嬉しいところです。
むしろ他の合致点の多さも見るに、『The Beginning』は原作版の実写化というより、OVA版の実写化という方が正しいように感じられます。

個人的にも「追憶編」は原作よりも、OVA版の方が出来が良いと感じているため、実写版がこの選択をしてくれたのは喜ばしいのですが、この場合最大のネックになるのが比較対象が自然とOVA版になること。
というのもOVA版、映画の前に改めて観返したんですけど、これがケチのつけようがないくらいの傑作なんですよね……映画版と特に変わらない時間(29分×4話分)であるにも関わらず、抜刀斎と巴の心の交流が丹念に描かれていて、だからこそ巴が最期に刻んだ十字傷にも並々ならぬ愛憎と情念が感じられる。それと比較してしまうと、実写版はただ要素をなぞっただけという風に思えてしまうのです。

特に決定的なのが「抜刀斎と巴が野菜を作る」描写でして、これは原作にはないOVAと実写版のみの要素(原作では最初から抜刀斎は「検心」という薬師に扮していて特に農作業はしていない)。
実写版では単に「慣れぬ作業をしながらも人斬り稼業をしている時より穏やかで満ち足りている抜刀斎」の描写だったんですが、OVA版ではそこに「野菜の半分が枯れて哀しむ巴に「まだ半分は残っているから」と慰める抜刀斎」の描写を挿し込んでいるんですね。
何気ない日常の一場面ですけど、これ何気に挿入するかしないかで終盤の展開の持つ意味が大きく異なってくる重要な描写です。要はこの場面一つに「生き残る者がいれば、死んでいった者がいても意に介さない」という抜刀斎の人斬りとしての業の深さが表されているんですよ。
そして、巴にとって「枯れてしまった野菜」は「維新の為に犠牲となった清里」と同義であり、だからこそ哀しんでいたのですが、抜刀斎はそんな哀しみを汲み取ることなく「残った野菜」即ち「新時代で生きられる人」がいるならばいいじゃないかとこれ以上なく傲慢で無神経なことを言い放っていたのです。
これこそ抜刀斎と巴の決定的な断絶であり、このどうしても相容れられない価値観がありながら抜刀斎を愛してしまった巴の業の深さにも繋がります。
野菜一つでここまで深く複雑な巴の感情を描き切っていたOVA版と比べてしまえば、実写版の心理描写の質は流石に何枚も落ちると言わざるを得ません。

そうなってくると、結局実写版に求められるのは「スーパー幕末大戦」要素になるのですが、何度も記しているようにそちらの成分はかなり不足している。まあ、折角OVA準拠でしっとりと描いているところに三味線掻き鳴らしながら無双する高杉入れられても雰囲気ブチ壊しなだけなんで、それは別に良いんですが、そこを差し引いても遊びが足りないのは事実です。
新選組にいたはずの鵜堂刃衛や、OVAでは最初と最後に出て弟子への印象的な想いを示した比古師匠などが出ないのはまあキャスティング含めて厳しそうなので仕方ないにしても、『The Final』で因縁を滲ませていた鯨波の姿形もないのは流石に片手落ちすぎる。
結局『The Final』と直接繋がっていた人物は幼少縁除けば、無名異だけという何とも言えないこの感じ……原作以上にめっちゃ痛そうな串刺し状態になっていたので、あのジャギマスクや機械音声の意味は明かされましたが、明かされたところで過ぎる……

あと牙神幻十郎…もとい人斬り時代の志々雄が影も形もないのは勿体なさすぎる……!いくら藤原竜也を出すのは無理と言えども、小五郎から言及はされているんだからそれっぽい人影や無限刃の特徴的な切っ先、もしくは燃え盛る飯塚の死体だけでも見せて欲しかった……
結果的にサプライズゲストとなったのは、新井赤空ただ一人なんですが、なんだこの何とも言えない絶妙な人選は……どうせ出て抜刀斎に刀を渡すなら、それこそ「再筆版」で抜刀斎が愛用していた初期型殺人奇剣「全刃刀」(峰どころか鍔にまで刃がついている危険極まる代物)を渡してくれた方が……

あと遊び云々除いても、清里殺害や鳥羽伏見の戦いを1作目からそのまま使い回すもんだから映像的に新鮮な部分が少ないところも気になりましたね……ただでさえ『The Final』で「忙しい人のための追憶編」って勢いで映像を先出ししていた上に、『The Beginning』内での回想も異様に多い(特に巴の日記読むところとか)ので特に余計にそう思ってしまう。


……と、凄く真摯に「追憶編」を実写化しようとした意志は感じられるものの、そのせいでOVA版の方が引き立ってしまったり、実写版の強みが活かしづらくなってしまった何とも中途半端な位置の作品となってしまいました。
丁寧に1作として完結しているという意味では、実写版の中でも特に出来は良い方なんですがね。それでも凄い歪な形でありながらも、新鮮かつ観ていて素直に楽しかった1作目や『The Final』のが僕は好きかなァ……
とは言うものの、『The Beginning』のラストで1作目の始まりに繋がり、綺麗に円環を成して実写版『るろうに剣心』が完結したこと自体は感慨深く、また悦ばしいことではあるのでトータルでは満足です。なんだかんだ実写版でここまでシリーズが続いた上に、しっかり結果出したのも凄いことだしね……



だからこそだね……実写版スタッフはるろ剣が成功したことに味をしめて、今度はオリジナルでスーパー幕末大戦な荒唐無稽時代劇をやって欲しいんだよね……
幕末の京都を舞台に滅茶苦茶な強さを持つ新選組が闊歩して、そこに迫り来るは異能とも言える練度にまで鍛え上げた剣術を持つ四大人斬りに、ガン=カタ使いの坂本龍馬……幕府隠密や御庭番衆まで絡んだ幕末一大スペクタクルをね……是非にだね………
俺は幕末スーパー大戦を諦めちゃいねェからな!!!!!

オススメ!