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コレクティブ 国家の嘘のRのレビュー・感想・評価

コレクティブ 国家の嘘(2019年製作の映画)
4.6
国家の陰謀モノを最近何作か見て、ちょっと興味が湧いてきたので、それっぽい副題『国家の嘘』に惹かれて見てみました。『コレクティブ』とは何だろうかと思って見始めると、ルーマニアはブカレストにあるライブハウスの名前らしい。ステージ上ではヘビメタバンドが演奏、観客もいい感じに盛り上がってる。一曲終わって、ステージ上からボーカルが、「あれ? あそこ、燃えてないか? いや、これは演出じゃないよ」 そう言われてみると、なんかちらちら炎が見えるような……と思ってると、一瞬にしてライブ会場の上部全体に炎がぶわっと燃え広がって、えっ⁈ 火まわるの速すぎひん? 会場全員が騒然! 出口に向かいながら絶叫する人々! こ、こわい!!! こんなん見せられたら、ちょっとでも、火事かも?って疑いを持ったら、早速移動するくらいの覚悟で生きてないと無理っすわ。その映像はライブハウスに実際にいた人が撮影したものなので、パニックの恐怖にめちゃくちゃリアリティーがある。その結果、なんと、27人が死亡、180人が負傷。負傷者は各地の病院に入れられ、治療を受ける。が、そのなかから次々と死者が出てくる。その数が明らかにおかしい。しかも、重症の人たちが死んでいくならまだしも、軽症だった人たちすら死んでいく。どういうこと?ということで、調査を進めているのが、スポーツ新聞の記者トロンタンさん。この人がいろんなことを暴いていってしまいます。まず、火災後、治療中に死亡した被害者の主な死因が、火傷とは無関係な緑膿菌であるということ。なぜ。そして、製薬会社ヘキシ・ファーマが病院に卸している消毒液は殺菌成分の濃度が薄められており、病院はそれをさらに希釈して使用していたということ。これによって、医療器具などの殺菌が不十分であること。なるほど、希釈された消毒液のせいで、緑膿菌が繁殖、その結果、感染症に悪化してしまっていたのだ。しかも薄められた消毒液は政府に認可されており、200以上の病院で使用されていることも分かり、ということは、それによる犠牲者は膨大な数にのぼることになるのでは……これをきっかけに、政府と製薬会社と病院の癒着がどんどん明らかになり、国民たちの怒りが各地でデモにつながっていく、という流れで、まーこっからどんどん話が面白くなっていくのですが、個人的に、本作で一番印象に残ったのが、スポーツ新聞社の記者トロンタン氏が語っているところ。「常々言っていますが、メディアが権力に屈したら、国家は国民を虐げます、同じことが世界中で繰り返されてきました」と言ってたんやけど、これで考えさせられるのが、日本のメディアって一体どうなんだろうか、ということ。国際NGOの国境なき記者団が、2023年5月3日に発表した世界報道自由度指数によると、日本は報道の自由度が全世界で68位、G7の中では最下位。慣習や政治的圧力、ジェンダーの不平等などにより、日本のメディアは政府の責任を問うジャーナリストの役割を十分に行使できていない、という評価だった。かねてから言われている日本のメディアの問題点を端的に挙げると、①複数のメインのメディアが一部の大手企業によって所有・運営されている②政府とメディアとの関係が密接で、政府や官庁からのプレッシャーや検閲で報道の自由が制限される③そのためメディアやジャーナリストが自主的に報道内容に制約をかけ検閲する。こういう仕組みができあがってしまっているとのこと。まぁ最近はネットニュースがあるからこの辺は揺らいで来てるとは思うけど、逆に信憑性のあるニュースを探すのが難しくなってもいる。またそれらの指摘以外にも、記者クラブの存在のために、一部のメディアのみが国から情報提供を受けることが可能であり、フリーランス記者や外国メディアは排除されるという構造が存在している。また、情報源が政府に集中することにより、政府が記者会見で発表した情報をそのまま鵜呑みにして報道する「発表ジャーナリズム」も問題視されている。などなど。それらを考慮に入れて見ていると、何とも、いやはや、ルーマニアの報道の自由さには日本は歯がたちません。先述のデモに参加した人たちも、「真実を追い続けるジャーナリストをリスペクトする」「隠蔽された事実を暴いたジャーナリストに拍手」「無関心は人を殺す」と大声で叫んでいた。ちゃんと市民にこういう意識があり、それをはっきり表現するエネルギーがあるというのは素晴らしいことだ。あと、こないだ見た『JFK』とか、だいぶ昔見た『スポットライト』とか見てて思うのが、欧米諸国って調査報道がかなり活発に行われてるイメージがあるけど、日本ではどうなんだろうか、ということ。森友学園問題とか、オリンピックの不正疑惑とかが調査報道によって明らかになった問題だと思うんやけど、それが海外ほど活発な印象がないのは、やっぱ上記の問題が大きいからなんやろーな。そんなこんないろいろ考えさせられた。あと、後半スゲーなと思ったのは、メインのキャラがトロンタン氏から、まさかの人物に移って、最初、え? どういうこと? と状況を把握するのに混乱。だって、まさかそんなポジションの人がドキュメンタリー映画のカメラ入れるの許可するってあり得へんと思ってたから! ほんまに途中まで、誰なのかよくわからなかったし、分かった後も、え? やらせじゃないん? と状況を飲み込むまでに時間がかかった。すごいなマジで。日本では絶対あり得んわ! しかも、この人がすごくいいんですねー。最初はちょっと頼りなさそうな人やなーとか思ってたら、実際はすごく芯のある人で、カッコよかった。最初から最後まで、エンターテインメント映画としても非常に楽しめる内容なのですが、特に最後は、おおおお、おおおお、と思わされた。長期に渡って同じ政権が権力を持ち続けてしまうと、政治的流動性がなくなるためか、ルーマニアにおいても若者たちの投票率がめちゃくちゃ低いんやって。だからこそ、政治的腐敗が継続してしまい、そのために有望な若者が海外に出て行ってしまうって……なんか聞いたことあるはなしだな。終盤、いろんな人のやるせなさを目にするのマジできつかったけど、ラストで流れる音楽、The Alternate RoutesというバンドのNothing Moreという曲。めちゃくちゃ良くて、最後は心が熱くなった。その後ヘビーローテーション。ほんとにすごい映画だった! あ、あと、メディア関係の人がひとりOSAKAって書いてるTシャツ着てるの気になった! ルーマニアで大阪!笑 ほんとにいろいろ考えさせられる映画なので、ぜひとも多くの方に鑑賞してみてほしい作品です。僕も、現在の社会の状況を、現象の根底にある普遍的実相から変革せんとする哲学を学び、それに基づいた生き方を実践し、また、哲学を教える身として、とてもインスピレーショナルな内容でした。何があっても挫けずに頑張らないとね👊
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