平野レミゼラブル

ただ悪より救いたまえの平野レミゼラブルのレビュー・感想・評価

ただ悪より救いたまえ(2019年製作の映画)
4.7
【殺戮が白スーツを纏いてやって来る】
昨年は個人的に韓流ブームが来ており、今年も新年早々に『新感染半島/ファイナル・ステージ』でブチアゲてきましたが、流石に全体的に見るとちょっと勢いは落ち着いてしまった印象。質自体は全体的に高品質ですけどね。流石に昨年の『パラサイト』『無垢なる証人』『エクストリーム・ジョブ』と韓国映画3本が年間ベスト10入りってくらいの勢いはない感じです。あと、最近はちびちび韓国ドラマ観てますけど、そっちが超面白いです。『愛の不時着』最高!!(『イカゲーム』じゃないんかい)
映画に話を戻すと、僕が最も韓国映画に求めているノワールの雰囲気が全然足りていない!今年の韓国映画は『新感染半島』や『白頭山大噴火』のような大作路線に舵を切っていて、もっとこぢんまりとしながらも画面いっぱいに血と硝煙の匂いが立ち込めているサツバツとした作品が全然ないんですよ!!
そんな僕の不満を見透かしたサンタさんからの贈り物こそ本作『ただ悪より救いたまえ』です。

もう、ポスターの異常なまでの格好良さで高揚。
西部劇の決闘のように佇む2人の悪党、「殺し合う理由。そんなものは忘れた──」のコピー、そして何より『ただ悪より救いたまえ』の邦題ですよ……!!全てが最高に渋くイカしており、ポスターを拝むだけで絶頂に至ります。
ストーリーも感傷を極限まで削ぎ落したドライさで、人を人とも思わぬ限りなく酷薄な犯罪と殺戮を際立たせているため、最初から最後まで不道徳たっぷり最高密度の韓国ノワール。最早ノワールというジャンル映画への殉死と言って良いレベルに、徹頭徹尾その空気を充満させているため、画面上で殺戮が起きる度に脳内麻薬がドパドパ出てきます。ヤバイ。最高……!!


冒頭から東京で殺し屋に狙われる東京のヤクザという何とも黒い場面から始まります。そのヤクザ・コレエダダイスケを演じるのが『ヤクザと家族The Family』で憎々しげな暗黒ヤクザを演じた豊原功補ってのが面白い。こちらでも負けず劣らず酷薄で凶悪なヤクザっぽかったですが、暗殺者インナム(ファン・ジョンミン)の最後の仕事の餌食となってしまいます。
インナムは元々国家の暗殺要因として働いていたものの、派閥争いにより組織が解体。口封じに殺されかけたため、恋人を置いて国外でフリーの暗殺者として生きる道を選びました。東京でのミッションを最後の仕事とし、あとは貯めた金を持ってパナマで余生を過ごそうとしていましたが、コレエダの弟である凶悪な殺し屋レイ(イ・ジョンジェ)がインナム周辺の人間を殺しながら追いかけ回します。
さらに、同時期バンコクに住んでいた恋人が何らかの事件に巻き込まれて死亡する事件が起きたことがインナムに知らされる。さらに彼女の娘も浚われたのですが、その娘は自分の子供かもしれないとされ……
かくして東京→バンコクへと舞台は移り、娘を探しつつ追ってくるレイと殺し合いをしなければならないという漆黒の鬼ごっこが開始されます。

何が凄いって、本作本当に余計な感傷を入れる暇もなくじゃんじゃん殺人、拷問、投資詐欺、誘拐、人身売買、臓器密売等々の極悪非道な犯罪の数々をお出ししていくってところですね。あまり直接的にグロテスクなシーンは映すことはないのですけれど、インナムの恋人の遺体からはバラバラに切り刻もうとした痕跡が窺え、人身売買組織はタコ部屋に子供を押し籠め、さらにその子供のお腹には臓器を抜き取られた生々しい傷痕が見える…といった具合に凶悪犯罪が起きたって事実を淡々と映していくやるせ無さで大分ゲンナリとさせてきます。
しかも、インナムの恋人が殺される経緯ってのも「投資詐欺グループが彼女に近付いて資産情報を把握する→お手伝いさんを買収して娘を誘拐させる→身代金を持ってきた彼女を殺害して金を奪う→娘はお手伝いさん個人によって売られる」というインナムの裏稼業の業まったく関係ない犯罪コンボによるものなので余計に酷い。ひたすらに治安が悪すぎるという点で物語を見事に彩ってくれます。ドス黒く塗り潰すの間違いかもしれない。
娘を追跡するインナムは、こうしたド外道犯罪者どもを順繰りに縊り殺して一応の溜飲を下げはしますが(恋人の仇を一番苦しむ形で殺したのが痺れる)、ここまで画面上で血が乾く暇がないってのも凄い。

ただ、その犯罪の全てをチンケなものに塗り替えるインパクトを誇るのが本作のターミネーター・レイです。
首までビッシリ彫り込んだタトゥーに、冷酷な目、インナーシャツ1枚or半裸に着流しの白スーツという容姿からしてヤバイですが、中身も自分をコケにした人物はその関係者も含めて全員皆殺しの偏執狂で、趣味も人間を吊るし上げて腹から裂くことと負けず劣らずヤバイ。
一応、インナムを追う動機は兄の仇討ちと真っ当な筈なんですが、行動のほとんどが相互理解不能な彼が兄と仲が良かったような気が全くしないので強い違和感があります。実際キャッチコピーの「殺し合う理由。そんなのは忘れた──」に近しいことを嘯いていますし、後半ほとんど仇討ちはどうでもよくなっていて、ただ画面上に死体だけを積み上げる災害と化しています。
ただひたすらに「殺戮」という概念が人間の形を成して白スーツ着こんで暴れ回っているだけなので、レイのキャラクターって実は物凄く薄いです。ただ、高密度のノワールを徹底した本作の敵役としてはこれ以上の適任はいないのも事実でして、存在意義の全てが「殺戮」なのは潔すぎるんですよ!!

実際にレイの暴れっぷりは凄まじく、ナイフで的確に頸動脈を刺して次々即殺を決めたり、かと思えば機関銃を持ち出して一息に蹂躙したり、手榴弾で全てをフッ飛ばして鏖殺したりと暴力の手筈が多種多様すぎる。
特に白スーツ&ティアドロップサングラスを装備してからの暴れぶりが極まっており、銃弾の雨、尋常じゃない火薬量でブッ飛ぶ車両、弾をいくら浴びても生きている不死身っぷりといった圧倒的「暴の嵐」が吹き荒れている為、脳汁ドパドパで情緒が狂います。絵面も相俟ってほとんど『西部警察』。
ストーリー内でインナムを狙う存在は他に現地警察とも癒着している人身売買ギャングなども混ざり、結構複雑な構造となりますが、実際に闘うのはこのレイに一本化されているため、あまりややこしくないのも良いですね。

後半こそ大味なドンパチの連打ですが、序盤から中盤は体術中心のナイフアクションや暗殺術でコンパクトに魅せてくれるのも嬉しいところ。段階的にアクションが派手になっていくから、どんどんアゲていくことが出来るんですね。
アクションはカット割り多めではありますが、抜群のカメラワークで観やすくて良いです。あとはインパクトの瞬間に早回しにしたり、中割抜いたりする演出もケレン味があってカッコ良かった。
特に人身売買組織の廊下での決闘は、一瞬のミスが死を招く狭所での戦いの魅力に溢れていて最高に面白かった。インナムとレイのファーストコンタクトともあって、廊下で向かい合って対峙する場面も、檻越しに相対して因縁を滲ませる場面もどちらも画が最高にキマっている。

一方、ノワールとしての魅力を増すために極限まで削ぎ落したストーリーが同時に弱点でもあって、真新しさとかは一切ないです。ストーリーラインは完全に『レオン』だし、娘との絆の在り方とかも殺戮の合間に育まれるのでそこに感じ入るとかそういう暇がない。
唯一の良心がオネェってのも結構安直ですしね。まあ彼女自体は凄く良いキャラしていたし、いくらこっちが凶悪さを求めていても、そればっかり浴びせられても困るので清涼剤として必須な存在ではありましたが……
本作を他作品で例えるなら『孤狼の血LEVEL2』の日岡vs上林戦を延々と続かせた感じでして、そりゃ悪と殺戮の限りを尽くされるエンタメは最高なんですが同時に疲れます。ただ、この全てが圧倒的暴力という画は脳内麻薬を分泌する上で最高の構成でして、人間には立て続けに殺戮を見せられるとブチ上がる機能が備わっているんですよね……なので最終的な感想は「最ッッッ高!!!!!」であり、単純娯楽の傑作と言い切っちゃいます。

超絶オススメ!!!!