むぅ

マーガレット・サッチャー 鉄の女の涙のむぅのレビュー・感想・評価

3.6
「い、嫌味だきっとこれ!」

冒頭、もう政界を引退したマーガレット・サッチャーが牛乳を買うシーンから始まる。
Netflixのドラマ『ザ クラウン』のおかげで、彼女が教育科学相時代に教育関連予算削減のために小学校へのミルク配給を廃止し"ミルク泥棒"と言われた事を知っていたので、これ"敢えて"のシーンだろうなぁ、ちゃんと買ってるから泥棒じゃないねぇ、などと思いつつ、ドラマや映画で見かけるたびにどうしても私には洗剤の容器に見えるものに入っている牛乳を見つめた。

そこでふと思う。
嫌味と皮肉ってどう使い分けるんだろう。

【嫌味】
人に不快な感じや思いをおこさせること、間接的ではなく直接的。
本人にその気がなくとも周囲の人が嫌味と受け取れば嫌味。
【皮肉】
相手の欠点、弱点を遠回しに非難したりからかうこと。
本人が相手を避難しようと意図している場合のみ。

という事らしい。
となると、これは皮肉か。


実際にマーガレット・サッチャーが話しているのを聞いた事はない。けれども『ザ クラウン』でも今作でも、マーガレット・サッチャーの口調はとても特徴的。
一度聞いたら記憶に残る話し方。
その2作の俳優たちの口調に共通点が多くあるので、きっとご本人にかなり似ているのだろう。そんな事を考えていたら、党首に立候補する彼女が「甲高い声で"がなる"な」と野次られ、演説や話し方のトレーニングを受けるシーンがあり、そういう事かと思った。
低く、ゆっくり。

気をつけなくては、と思っているものの私は人の話し方に気を取られてしまう。
大切なのは相手が何を伝えようとしているのかなのだけれど、話し方によって印象が大きく変わってしまう事があるので、個人的にとても印象に残るシーンだった。
私も、聞きやすいなとか丁寧だなとか、出来れば魅力的だなと思ってもらえるような話し方を心がけよう。
自分の声が好きじゃないので、せめて話し方は。



仏頂面のメリル・ストリープが好きで仕方ない。
ご本人からしたら「あっそ」だとは思うが、もう小躍りしたくなるくらい好きなのだ。
出来ればずっと仏頂面でなにとぞ!くらいに好きである。
ちなみに私的最優秀仏頂面賞は『プラダを着た悪魔』に差し上げている。次点が『ストーリー・オブ・マイライフ /わたしの若草物語』
仏頂面なのに表情豊か、傲慢さ、嫉妬、哀愁、様々な色の滲むメリル・ストリープの仏頂面。
そしてちょっと皮肉も潜む。
今作でも堪能出来て嬉しい。
知性や品性のある最高級仏頂面で賞。


マーガレット・サッチャーがビジョンや信念について語る言葉に、スティーブン・R・コヴィー著『7つの習慣』を思い出す。
ついでに20代前半の頃、その地区の"名物マネージャー"が、いやポートレートでも撮る気か!と突っ込みたくなるくらいキメッキメのポーズで
「むぅとね、私が今一緒に働いてるのは運命なの」
とキラキラしながら、その本をプレゼントして下さった。
彼に認められた際に、そのような通過儀礼があると散々聞いていた私は、もう彼の誰かを刺したいの...?と思ってしまうほどにピンと立ったポロシャツの襟の先を見つめながら生返事をした。
今更ながら反省する。
見た目や話し方に惑わされてはいけない。

と、思いつつもマーガレット・サッチャーのクローゼットに並ぶ鮮やかなブルーのスーツたち。
彼女の戦闘服だったんだろうな、と思いながらも、イエベ秋としてはそんな鮮やかなブルーが似合っていいなぁとなった。
むぅ

むぅ