Dick

名もなき歌のDickのネタバレレビュー・内容・結末

名もなき歌(2019年製作の映画)
3.0

このレビューはネタバレを含みます

❶相性:中。
★良い題材で、真面目な意欲作ではあるが、その描き方に乗れない。
★30年前の問題点を羅列しただけで、今に通じるメッセージが伝わらない。

➋時代と舞台:1988年、政情不安に揺れるペルー。その南部の都市アヤクチョ圏内の寒村(注1)と首都リマ。
①1988年と言えば、名古屋が、まさかの落選となったソウルオリンピックの年である。
★個人的には、家族4人で海外駐在していた年である。
②ペルーは、1980年に、軍事政権から民政移管となり、1985年に、アラン・ガルシア大統領が就任して、貧困層の救済に尽力したが、数年で行き詰まり、経済の縮小、ハイパー・インフレの発生、治安の悪化等が起き、過激派によるテロが活発化した。日系ペルー人のフジモリ大統領が誕生するのが1990年である(出典:wikipedia)。
③1988年のペルーはそんな不安定な時代だった。

(注1)アヤクチョ近郊の寒村
★本作では、地名を特定しているが、日本人には馴染みがないので後から調べた。
①ペルー南部に位置する標高2,700mの「アヤクチョ(アヤクーチョ、Ayacucho)(人口15万人)」は、農業と、繊維、窯業、皮革業、金銀線細工などの軽工業で成り立つ町(出典:Wikipedia)で、主人公が暮らすのは、町はずれの寒村。
②アヤクチョから「リマ(人口1,000万人)」までは約600km。新幹線の名古屋-東京(340km)の2倍近い。鉄道はないが、航空便はある。車なら9時間もかかる。バスなら10時間以上かかるだろう。
③本作では、主人公がバスで、数回往復しているが、そんな長距離には見えない。
★メリーナ・レオン監督は地理関係をきっちり描くことが不得手なように思える。あるいは、わざと曖昧にしているのかも知れない。真相は不明である。

❸主な登場人物
①へオルヒナ(パメラ・メンドーサ):主人公。貧しい生活を送る先住民の20歳の妊婦。夫のレオが働く農産物倉庫から仕入れたジャガイモを道端で売っている。
②ペドロ(トミー・パラッガ):新聞記者。同性愛者。へオルヒナに協力する。
③レオ(ルシオ・ロハス):へオルヒナの夫で23歳。町の農産物倉庫で働いている。

❹考察
①冒頭に、「事実に基づく物語」との表示がある。
②主人公ヘオルヒナと夫レオの間に子どもが出来て、村中の老若男女が盛大に祝ってくれる。その数は、優に100人を超えていると見られる。「父なる太陽、母なる月から赤ちゃんを授かった」。
③へオルヒナは、ラジオで、リマに無償出産出来る産院があることを知る。
④へオルヒナは単身リマに出かけ、その産院で出産する。
⑤しかし、赤ちゃんには会わせてもらえず、翌日まで待つように言われる。
⑥翌日、へオルヒナはレオを伴って出直すと、産院は、もぬけの殻。
⑦警察と裁判所に行くが、有権者番号がないとの理由で、受け付けてもらえない。
★もし、受理されたとしても、まともな捜査はされないだろう。
⑧思い余った2人は、新聞社を訪ねると、運よく記者のペドロが事情を聞いてくれて、上司の命令でペドロが担当することになる。
⑨ペドロは、まずラジオ局に行くが、「上司から口止めされている」と拒否される。
⑩次に不動産屋、警察、裁判所等に行くが、厚い壁があった。
⑪しかし、ようやく、乳児売買組織のあることを突き止める。養子として、国外に出国していたのだ。
⑫へオルヒナと同じような被害者が他にも沢山いた。
⑬ペドロは、組織の本拠地のある「イキトス(リマの北北東約 1,000km)(人口44万人)」に出張して、調査し、結果を記事にする。
⑭ペドロが司法省の幹部を追及すると、その幹部は「子こどもの立場を考えろ、何も与えてやれない母親の元にいるよりは、国外で養子として育ててもらった方が子供のためではないのかだ」と答える。
⑮ペドロは、或る俳優と同性愛の関係にあった。そのことをネタに、これ以上深入りするなとの脅迫状が届く。
⑯ペドロは追求を中止する。
⑰レオが失業し、センデロ・ルミノソ(ペルーの極左武装組織)に加入し、爆破テロを起こす。
⑱その現場をへオルヒナが目撃する。
⑲後日、乳児売買組織の幹部が逮捕される。しかし、子供たちは母親の元には戻らない。
⑳ヘオルヒナが、戻らない赤ちゃんに向けて、歌を歌っているシーンで幕が下ろされる。
★貧困層の人々は、黙って耐えしか道はないのか?
★映画一巻の終わりでございます。いささか消化不良の面はありましたが、まずはお楽しみ様でした。

❺疑問点
①ヘオルヒナは、リマで無償出産することを誰かと相談するシーンが全くない。
★多分、夫のレオには相談したと思うのだが・・・
②ヘオルヒナは、600kmも離れたリマの産院へ、たった一人で出かけて出産する。レオは同行しない。
ⓐ無償出産のために、600kmも離れたリマまで行くのだろうか?
ⓑ徒歩圏内のアヤクチョで間に合うのではないか?地元で出産した方が安心なのでは?
ⓒ妊婦は他にも沢山いる筈。彼らはどうしているのだろう?リマまで行ないだろう。
ⓓ出産費用が捻出来ないのなら、村中総出で盛大に懐妊を祝ってくれた村人に相談すれば、援助してくれるのではないか?
★ペルー人の習慣は分からないが、わざわざリマまで行くのは、問題を作るための意図的な創作としか思えない。
③赤ちゃんが、さらわれたことに関しても、家族や村人の誰かと相談したシーンが一切ない。
★懐妊を村中であれほど祝ってくれたのだから、きっと協力してくれると思うのだが・・・
④悲嘆にくれているのはヘオルヒナ唯一人。夫レオもさほど悲しんでいるようには見えない。
★等々、あまりにも疑問点が多すぎた。
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