平野レミゼラブル

竜とそばかすの姫の平野レミゼラブルのネタバレレビュー・内容・結末

竜とそばかすの姫(2021年製作の映画)
3.1

このレビューはネタバレを含みます

【細田くん!インターネットから離れよう!!】
そういや細田守監督作品って『サマーウォーズ』以外観てないな……と思いながらも、他の作品にあまり食指が動かなかったため、その状態のまま観賞。
『サマーウォーズ』はなんやかんや好きでしたし、同じようにネット上の仮想空間を舞台にするガール・ミーツ・ボーイ系の作品となると気になってくるんですよ。それこそ細田監督は『ぼくらのウォーゲーム』の頃からずっとネットというテーマに取り込んでいますしね!
ん…そういやデジモンの映画は観ていたな……あれ?じゃあ『ぼくらのウォーゲーム』も観ていたんだっけ?つかぬことお聞きしますが、『ぼくらのウォーゲーム』の敵って踏切をブチ壊しながら逃走してましたか?そうであるなら、僕は『サマーウォーズ』に加えて『ぼくらのウォーゲーム』も観賞済みです。まあどのみち、踏切ブチ壊したところしか覚えてないんやけどな。ブヘヘへ。

それはさておき、そんな細田守ビギナーが本作を観て真ッ先に出た感想は
「ほ……細田くん……!なんか嫌なことでもあったのか……!?」
ですね……
えー……何というかこう心配したくなるくらいに、作品内にネット上での悪意が描かれまくっていて困惑してしまうんですよ!!細田監督は「『ぼくらのウォーゲーム』から『サマーウォーズ』とずっとネットを肯定的に描いてきた世界で唯一の監督」と自称しておりましたが、流石にこれに関しては「嘘を吐け!!」ってツッコんでしまう。
それくらいには本作のネット上の書き込みは露悪的で、かつ本当になんか良くないものでも見続けたのか?ってくらいの嫌悪に満ち溢れていました。少なくとも僕はそう感じてしまったよ……うん……

まず、一番謎なのが本作におけるネット上の仮想空間である<U>。
「現実はやり直せない。でもネット上でなら別の自分としてやり直せる」ことをウリにしていまして、そこではAsと呼ばれるアバターとなって様々な活動をすることが出来ます。そのように定義付けている以上、<U>は理想的なユートピアであり、それこそ肯定的に描かないといけない居場所なワケです。

ところが、実際の<U>というのが現実世界以上に悪意に満ち溢れている。主人公のすずは引っ込み思案で人前で歌うことも出来ない現実での自分を嫌悪していて、<U>内で「ベル」という名のAsとして伸び伸び歌おうとするんですね。
しかし、ベルは歌い始めて初っ端から大多数からウザがられてしまう。その反応というのも無視されるとかじゃなくて、「うるさい」とか「迷惑」とか「何アレ」という攻撃性の伴った中傷だから<U>の大多数が悪意に満ち溢れているとしか言えないんですよ!!
その後は親友のヒロちゃんの鬼のようなプロデュース力で、<U>最大の歌姫として君臨しますがファン半数・アンチ半数ってんだからとんでもない。ヒロちゃんの賛否両論なくして何が人気者かって言も説得力こそありますが、いやそれにしたって時代の寵児の割に悪意の割合多くにゃい?
ネットなんてそんなもんて言われたらグウの音も出ないけどさ、やっぱり<U>って現実世界で失敗した人がやり直すための場所としては不適格すぎると思うよ?入っていきなり悪意が吹き荒れているんだもん。
この悪意があまりに多すぎる第二の現実って描写の時点で、細田監督にとって<U>はどういう場所なのかって部分が大分ふわふわしています。

サマウォの仮想空間だったOZもそうだったけど、<U>も具体的にどんなサービスやっているかって部分についてもふわふわしています。<U>内に集うAs達の大多数はなんか大勢の流れに身を任せて漂っているんだけど、アレ何やってるんですかね…?
音楽会場や闘技場などがあるため、そういう娯楽サービスや組織もあるんだろうけど、具体的にどのようなことが成されているかの説明がないため、本当によくわからない。

作中ではベルが人気の歌姫になる一方で、「竜」と呼ばれる闘技場のランカーが疎まれ、やがて皆がその正体探しに躍起になる展開が挟まれますが、その闘技場というのがただの一度も描写されないため、竜がそこで何をしでかし嫌われていったかという部分がまるでわかりません。
また、竜を追う<U>の非公式自治警察であるジャスティスはスポンサー付きのグループですが、具体的にどのような活動を行っているのか不明なので、何故そんなに持て囃されるのかもわからない。ネット上で自治やっているヤツなんて、普通そっちのが嫌われないか?
加えてジャスティスのリーダーであるジャスティンには「アンベイル」というAsの個人情報を暴く相当にとんでもない特権武器の所持と使用が認められていますが、何故彼がそんな代物を持っているのかも明かされないという……

要は物語の根幹を成す屋台骨が超不安定な状態であるため、そこで起こる全ての事象が空を切るかのような現実味のない出来事となり、全然響いてこないのが本作最大の問題点です。


大体、Asの設定が個人的にはファッキンクソッタレなんだよな……
Asは<U>での自分の姿なんですけど、これ自分で創るんじゃなくてAIが読み取った顔や自分の生体情報を元に自動で創り上げるものなんですよ。

そ れ 普 通 に 嫌 じ ゃ な い か ?

なんだって人工知能風情に勝手に俺を決められなきゃならんのだ!?もう一つの現実って謳うくらいなら、そっちでのアバターにまで口出ししないでくれよ!!
大体、そこで<U>のヤローにナメクジみたいなAsをお出しされたら一生立ち直れないぞ!!遺伝なら諦めもつくが、俺の生体情報まで読み取った挙句、「お前はナメクジだ!!」とか抜かされた日にゃ絶望しかないだろ。このインターネットファッキン害悪クソバードの火の鳥がよ……

50億人が<U>に参加しているって宣っていますが、きっとこの内の大半はゼッテェーAs創られた時点で「ふざけんな!」って放置している連中ですぜ。きっと賑やかしの為に<U>側が大量のAsの抜け殻を浮遊させているに違いない。なんか<U>上で所在なさげに漂うだけのAsが大多数だったしな!!


全体的にそういうふわふわしたどこか納得できない空気のまま、ベルと竜の心の交流や、有名になっていくベルと現実の自分とのギャップに悩むすずの問題が進んでいくため、そもそも物語に没入するのが難しかったかな……
幕間で挿入される竜の正体探しについても、ミステリ要素になるわけでもなく、代わりに「不祥事のつるべ打ち」、「虚飾の王様」、「掌返し」といったネット上での悪意を丹念に描いていくので大分げんなりしてくる。
最終的に明らかになる竜の正体については、児童虐待という異様に生々しい現実の問題とリンクしてしまうのですが、ふわふわした<U>の仮想空間のノリのまま解決に乗り出していってしまうのでまるで説得力がないという……
そもそも、竜を救うために「ベル」というAsを捨てて「すず」という現実の顔を出さないといけないって理屈も納得し難いんだよな……いやネットリテラシー的な意味でも、結局リアルとネットを切り離さないといけないという価値観的な意味でも。
結局、細田監督にとっての<U>が「そこにあるべき第二の現実」なのか「そこから帰るべき虚構の世界」なのかがわからないまま、何となくでクライマックスに行ってしまった感じ。

さらに言うと、今回現実パートが<U>と絡む要素がまるでないから退屈だったんですよね……
ルカちゃんやカミシンといったサブキャラの恋は<U>を一切介さないので本筋とのリンクが弱く、父親との関係のギクシャクにしても思春期の女子だったらあんなもんな気がしないでもないから修復したからなんだってくらいに落ち着いちゃうし。
特に<U>をやっているワケでもないのに50億分の1のすずを見つけちゃうしのぶくんといった奇跡や幼馴染パワーと言うにはあまりに粗い展開も気にかかるし、何より合唱部の大人たちの役立たずさよ……サマウォみたいにすずのピンチに立ち上がる展開も急すぎたし、結局一番大人の力が必要な東京の虐待現場へ向かう時には「すずちゃんの決定だから」で誰一人同行しないってなんだそりゃ!何のための大人なんだよ!!
ここら辺、一族全員が何らかの技巧持ち&有事には全員一丸となって連携する熱さがあった『サマーウォーズ』がいかに巧みだったかって話ですね……

そんな感じで全体的に全く乗れず、ハッキリ言ってしまえばイマイチな作品ではあったんだけど楽曲と映像のシンクロに関しては滅茶苦茶に良くて、そこは圧倒されっぱなしでした。
特にOPの『U』は圧巻で、こまごまとしたAsの波の中で堂々と立つベルの姿が凛々しく美しい!!また楽曲自体も非常に面白くて聞き慣れない、それでも耳障りの良い音とのシンクロが未知へと誘う心地がしてとても良い導入でした。これは思わずリピートしちゃう。

https://youtu.be/FU3qINrL8jM

ただ、それ以外の全てはスッと横を素通りしていってしまうような思い入れの持てなさでして、その代わりに剥き身の悪意のみが襲い掛かってくるという……スッゲェー余計なこと言うならば、本当に細田監督はエゴサも一切せず、一度ネットと距離を置いた方がいいんじゃないかな……