平野レミゼラブル

1秒先の彼女の平野レミゼラブルのレビュー・感想・評価

1秒先の彼女(2020年製作の映画)
4.1
【奇妙で可笑しく、忙しなくものんびりな消えたバレンタイン狂騒曲。】
何でもワンテンポ早い彼女シャオチーと、何でもワンテンポ遅い彼グアタイ2人の視点で「消えたバレンタインデー騒動」を描いたラブコメ映画。
因みに舞台は台湾なのですが、台湾ではバレンタインが2月14日と七夕で2回あり、本作では七夕のバレンタイン(七夕情人節)に纏わる話になっています。

人よりワンテンポ早いシャオチーが幼少期から歌や踊りに徒競走で一歩先にズレてしまい周囲に馴染めない描写が最初に紹介される時点で奇妙な雰囲気ですが、全体的にその雰囲気を徹底させているため、奇妙な設定をすんなり呑みこませるのが巧いです。割と「オイオイ…」ってなる無理筋な展開や行動も多々ありますが、全体的に漂う鷹揚な雰囲気の前では自然とギャグとして流せる。
むしろ、個人的には冒頭からシャオチーの人物紹介で「受精卵」、「映画観賞」、「証明写真」とオールタイムベスト映画である『アメリ』オマージュのようなナレーションが入る時点で「オッ!」と思わず期待しちゃいましたね。中盤に現れるヤモリの親方とかもアメリちゃんが興じる空想めいたシチュエーションでフフフとなります。『アメリ』のどこかお洒落で、下世話で、ナンセンスだけども優しい気持ちになれるあの空気が好きな人ならば、間違いなく本作も好きになれると断言できます。

物語としては「年齢=彼氏いない歴」でワンテンポ早いアラサー郵便局勤務のシャオチーが、やっと出来たダンサーの彼氏と一緒に七夕バレンタインを楽しもうと出かけたら、いつの間にか自宅ベッドでしかもバレンタインが終わっていたという謎めいた状況を提示。
彼氏とは連絡が取れなくなっているわ、何故か日焼けしているわ、写真屋に撮った覚えもなければ撮れるワケもない瞬きしていない自分の写真が飾ってあるわ(ワンテンポ早いから写真を撮る時に必ず瞬きする)と空白の1日で不可解な出来事が生じていたらしいことも明かされ興味を惹きます。
前半はそんなシャオチーの視点で、消えたバレンタインの謎を提示しているワケですね。ミステリで言う出題パート。

そして、後半からはシャオチーとは正反対で何をやるにしてもワンテンポ遅いグアタイの、人より遅いが故に何もかもがズレてしまい周囲と馴染めなかった半生をシャオチーと同じ要領で描写。そんなグアタイの視点から、もう一度バレンタイン前日からリピートして全ての謎を回収していく解答パートに入ります。
グアタイは前半では、毎朝シャオチーの窓口に来ては切手を買って手紙を出す変人として登場し、消えたバレンタインの翌日に日焼けして顔が膨れ上がった異様な風体で現れて以降はフェードアウトしてしまった人物。そんな彼が前半の裏で何をやっていたのか、何故毎朝手紙をわざわざ窓口から出していたのか、消えたバレンタインに彼に何ごとかあったのか等々が「消えたバレンタイン」の謎と共に明かされているのが鮮やかです。

要は前半の時点で伏線込み込みの映画というワケで、単体で観るのはもちろん、全ての真相を知った状態でもう一度シャオチーパートを観ても新たな発見があって楽しい、一粒で二度美味しいお得なラブコメとなっています。
僕は運良く試写会が2回当たったんですが、これ幸いとばかりに2回連続で試写会に参加しましたからね。実際、2回観ることでさらにニヤニヤできましたし、映画自体も観返すごとに新たな発見がある楽しい仕掛け満載な映画なためリピートしても全然飽きることがなかったってのは凄い強みです。

また、この何もかも対極な2人の視点が巧く交わり、綺麗に真相が解き明かされた時の気持ち良さはもちろんのこと、「ワンテンポ早い/遅い」という本作独自の個性の付け方がそのまま演出の違いとしても現れているのが面白い。
同じ1日であっても、シャオチーパートは次々場所を移動していく目まぐるしさで物語が進んでいくのに対して、グアタイパートでは場所は固定されたままゆったりと物語を進めていく…といった塩梅に前半・後半でテンポに大きく差があるのです。この両極端な演出が中々心地好く、ワッと情報の波を浴びせられた後にゆっくり一つひとつそれらをまとめていく流れってのも中々バランスが良い。緩急織り交ぜた演出の妙が光ります。

そして、気になる「消えたバレンタイン」の謎に関して……ここが本作随一の見所かつ映像的にも相当に凄いことやっていておったまげたんですが、ネタバレ厳禁のため深く語れないのが惜しい……!
敢えて色々伏せた上で、一言で言うならば「スタンド攻撃を受けているッ!!」ですかね。
マジで映像表現がとんでもなくて、今後アレがアレするアレな映像作品観てもフィクションにしか思えなくなる副作用があったよな……アレ、予算がなかったから極力CG使わなかったって聞いたけど、そっちのがビックリなんだよな……

ネタバレ無しで良さを語るなら、やっぱりこの映画の全体に流れている寛容で優しい雰囲気が何より好きなんですよね。それこそ、再三共通点を指摘している『アメリ』と同様の空気が流れているというか。
奇妙な人々が奇妙なものを奇妙なままに根付かせていくことを肯定していることが喜ばしい。お互いにたっぷり描写されてはいるけど中々交わることがない男女の恋愛模様もいじらしくて素敵だし、やっぱりアメリとニノの関係性を思わせてニヤニヤしてしまう。
シャオチーやグアタイの物語の片隅に存在していたとあるサイドストーリーにも、ガラス男のようなちょっぴりの悲哀とそれでも何だかんだ楽しく生きていく人間賛歌が流れていましたし、本当に観ていてどこか安心して幸せになる感じなんですよね。
なんかほっこりしたい!癒されたい!って時に自信を持ってお勧めしたい作品ですし、情勢が落ち着いたら台湾旅行も良いなァ…と思えるくらいに地元情緒にも溢れているのもまた好(ハオ)です。

オススメ!

それにしたって、シャオチーの後輩ちゃんが目茶苦茶カワイイヤッター!!オッ↓オー↑
演じるジャアジャアちゃんの本業はプロ碁師らしく、本作が女優デビュー作らしいですよ。