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ウォーターシップダウンのうさぎたちのbackpackerのレビュー・感想・評価

4.0
昔々、フリス様がこの世を作った……。

1978年公開、イギリスの作家リチャード・アダムスの処女作にして、1973年にカーネギー賞とガーディアン賞 、1974年のベストセラー第2位となった、名作児童文学のアニメ映画作品です。

物語は、うさぎたちに伝わる創世神話から幕を開けます。
神話の内容は、簡単に以下のとおりです。
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昔、創世神(太陽神)フリス様が世界を作り、草食動物が仲良く暮らしていた。
しかし、うさぎは他の動物たちのことを顧みず、草を食べ尽くし、繁殖していく。
それを見かねたフリス様は、うさぎの王エル・アライラーを咎めるが、エル・アライラーは傲慢に「うさぎこそ最も優れた生き物だ」と言い放つ。
「ならば、他の全ての動物たちが、うさぎ族の敵となり、お前たちを殺すだろう」と告げたフリス様は、草食動物たちに特色を与え、イヌ・ネコ・キツネ・フクロウ等の姿へと変えると、うさぎは次々と殺されていった。
戦慄したエル・アライラーは、死の黒うさぎの影に怯え、穴に顔を突っ込んで震えていた。
そこに現れたフリス様は、お前にも恩恵を授けると告げ、白く輝く尻尾と、誰よりも早く駆ける後ろ脚を与えた。
ーーーーー

このようなオリジナルの神話によって始まる本作、しかし作品の内容は、明らかにキリスト教(聖書)を前提としたストーリーテリングがなされていきます。

今度は、本作の物語の導入について、軽く触れておきたいと思います。

物語は、本作の主人公、リーダーシップのあるうさぎのヘイズルが、彼の弟ファイバーの預言を踏まえて行動することから始まります。
「なにか良くないことが起きる。集落から出ないと危ない」と言い出したファイバーのために、ヘイズルは、集落の長の下に直訴に行きますが、すげなく追い返されます。
怯える弟のために、こっそりと集落を出ることにしたヘイズルは、長への面会を通したため上士(アウスラ)の任を解かれた力自慢のビグウィグや、僅かな賛同者達と共に、安住の地、理想郷を求め、旅を始めるのです。

これはまさしく、旧約聖書の出エジプト記の再現ですね。
神経質で預言の力を持つファイバーは、預言者としてのモーセの役割を受け持ちます。
兄のヘイズルは、まさしくモーセの兄アロンであり、かつ指導者としてのモーセの一面を併せ持つ存在として描かれているのです。

指導者と、預言者と、約束の地を目指す苦難の道と、繁栄のための戦い。
聖書の物語をなぞるように、うさぎたちの受難を描く、大変宗教的な意味での深みを持った作品なのです。


内容により細かく触れていけば、更にキリスト教的な要素が溢れていることがお伝えできるのですが、文量の関係で割愛します。

また、うさぎのリアルな動作等に代表されるよつな、本作が紡ぐ繊細なアニメーションについても記載したいのですが、そちらも割愛(負担が重いので……)。

要するに「オススメだから見てみて!」ということで、終わりたいと思います。
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