平野レミゼラブル

黄龍の村の平野レミゼラブルのネタバレレビュー・内容・結末

黄龍の村(2021年製作の映画)
3.8

このレビューはネタバレを含みます

【ところで『黄龍の村』ってどういう意味ですか?】
神前の供物である肉丼って、マヨネーズかけちゃっていいんだ……

今年のベスト10入り内定である話題作『ベイビーわるきゅーれ』の阪元裕吾監督が次に手掛けるのは村ホラー!!と言っても、撮影で映っている街の人々がマスクつけてなかったりする辺り、撮影はコロナ禍前、即ち『ベイビーわるきゅーれ』どころか『ある用務員』よりも前っぽいですが……
それはともかく、インディーズ界隈でアクションに拘りを持ち、海外に輸出された『ベイビーわるきゅーれ』も「HEY!この映画のGIRL’sをHOLLY WOODは『ジョン・ウィック』にスカウトした方が良いんじゃないカ?」と好評だという阪元監督。そんな彼が手掛けるホラー映画って時点で一筋縄ではいかない気がしましたが、案の定阪元印のフレーバーが強すぎて村ホラーの要素が消え失せてしまう怪作となってしまいました。
『ミッドサマー』だと思った?残念!!『VERSUS』でしたー!!って感じです。


……というか、日本の森の中で本格的な肉弾戦やられたら、それはもう完全に『VERSUS』なんよ!!
坂口拓さんや北村龍平監督の名を世に知らしめたことでお馴染みの、元祖インディーズアクション映画『VERSUS』ですが、あれって真に楽しむにはあの当時に観るしかないって空気感もどこか感じられる作品ではあるんですよ。
いや、そりゃクセになる粗さや、中学二年生的用語や設定の数々がケレン味となって面白く観ましたけど、当時評価されたアクションや映像技術はインディーズレベルとしては凄いってことで、拓さんや北村監督が出世して予算が増えて洗練された作品を別に撮ってしまった時点で、単純な出来自体は後発の作品に軍配が上がります。アクション自体にも旬はあって、『VERSUS』のアクションは『マトリックス』の流れを汲んだゼロ年代初頭辺りの流行であり、今観ると古臭さってのはどうしても感じざるを得ない。

そういう意味ではこの『黄龍の村』、僕にとっての『VERSUS』に成り得る作品だったと思います。
スマホ撮影による始まりとか、ウェイ系陽キャの悪ノリっぷりとか、10年後に観てもナニコレでしょうからね。いや、今見ても薄っぺらいノリの連続にナニコレだったけど、余計にね……
そこから龍切村という惨劇の舞台に入ってから画面もワイドになり、怪しげな雰囲気になってから一気に盛り上がってきますが、まあそのセットも大分チープ。龍切村には独自ルールがあり、その内の一つが人肉を加工してオビダワラ様(?)なる土着の神に捧げるというものなんですがどう見ても牛肉です。なので出来上がったものがただのすた丼なんですが、まあこの辺りは低予算であることを開き直っているんでしょう。マヨネーズかけてるし。
また、村人達の被っている面がどう見ても図工の時間に作った質感で、『スレイト』のドンキで買った面より安上がりとは思いませんでした。面を抜きにしても村人達は怪しげなのですが、言動や髪型がチンピラ超えて世紀末なヤカラや、ポン刀携えた何か強そうな人、何か馬に乗ってる人(馬の出番は最初以外ない)、ファンキーな服装の爺さんと怪しげの次元が違う。
ここら辺、最初からそういう低予算ノリとわかっていないとノッていけない部分でしょう。


まあ『ミッドサマー』というより『VERSUS』と言った時点でお察しかと思いますが、本作のノリというかジャンル、実際は「村ホラー」じゃなくて「バリバリのアクション映画」なんですよね。なので“そういうノリ”とわかった瞬間に、本作の推進力は上がり面白さも跳ね上がります。
また、その時に話の中心になるのが、これまでずっと画面の中心でギャーギャー騒いでいた陽キャではなく、ずっと画面端っこの方に追いやられ、陰口を叩かれていたメンバーってのが熱い。彼らは、実は村の掟で殺された身内の復讐を目論む暗殺要因であり、陽キャグループを隠れ蓑にして村に潜入していたワケです。
クレジットトップ、グループリーダー、割と長い尺による覚醒描写を取っていた水石亜飛夢は前半であっさり殺されてフェードアウトですが、彼は村人に対して、あるいは観客に対しての撒き餌でしかなかったんですね。ニチアサ俳優使った撒き餌ってのも凄い話ですが。

後半からは『ある用務員』でヒロインの幼馴染や『ベイビーわるきゅーれ』でおいで(クイクイの人としてアクションを魅せていた(おいでの人は魅せてないだろ)伊能昌幸さんらが中心となったバトルロイヤルが開幕。
もうここが本当に『VERSUS』としか言いようがなく、低予算であることは隠せないものの、そのチープさが却って味になっている良い具合の混戦っぷり。伊能さん始めとするメインキャストはかなり動ける人を使っているため、ガチの肉弾戦でチープさを補っているのも好印象です。

森の中での戦いというシチュエーション以外でも『VERSUS』に通じる部分は多いです。
村で神として祀られ人肉を食わされていた怪人といったオカルトちっくなシチュエーションに、村人の悪の組織の幹部のようなビジュアルや設定etc…
特にポン刀使いは黒コートの恰好&結わえた長髪が拓さんを意識しているかのようです。ポン刀はすぐに使わなくなって、結局特殊エフェクトが入った河原での殴り合いに落ち着くのも『VERSUS』で凄く観た覚えのある光景すぎました。

そんな感じにチープながらもケレン味溢れるアクションと、後半からの大胆な転調は楽しく、また上映時間も66分とまずダレることがない適切な尺配分とあって中々楽しめる作品でした。
序盤の陽キャのノリはかなりついていけない部分があるのだけど、まあ言うてコイツら全員生贄枠だしな……で流せたのはデカい。それに、その際に後半大暴れするメンツは軒並み伏線をばら撒いているし、見ようによっては前半居心地が悪く感じていた奴らによる復讐譚でもあるわけです。
ただ、この前半から後半の転調に関しては、「ビックリさせる」以上の意味をそこまで見出せなかったのが惜しいっちゃ惜しいかな。後半パートを経ることで、面白くない筈の前半にすら愛おしさを抱けるようになる『カメラを止めるな!』の領域には達せなかった。あと、やっぱり水石亜飛夢を撒き餌にする手法ってのは結構ズルいです。

とは言え、やりたいことをやりたい放題やった上で、ちゃんと観客を楽しませるしっかりしたエンタメ精神に溢れていたので満足感は強いし、密度の高いアクションをお気軽に楽しめるノリってのが最高でした。
来月の『最強殺し屋伝説国岡』も伊能さん主演かつ『ベイビーわるきゅーれ』の原型とも言える作品らしいので楽しみです。

オススメ!