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ライダーズ・オブ・ジャスティスのbackpackerのレビュー・感想・評価

4.0
「後悔ばかりだ」

【現実と空想、神の意志と偶然】
今回北欧の至宝マッツ・ミケルセンが演じますは、列車事故で妻を亡くした、アフガン帰りの強面軍人・マークス。グレーがかった坊主頭&髭面に、口数少なく粗暴な性格と、厳つさが全面に出たキャラクターです。
ホントのところ、娘への接し方がわからぬうえに、突然の妻の死を受け止めきれず、その戸惑いを表現できない不器用な男でもあります。
そんな男が、「実は列車事故はある人物の暗殺のために仕組まれた」と主張する、はみ出し者の学者連中と共に、復讐鬼となり活動します。いやー、実に良い話……なのかなぁ?

前述のとおり、マークス(マッツ)は武闘派ゴリゴリの荒くれ軍人。彼の参謀役となるのは、『特捜部Q』シリーズでお馴染みのニコライ・リー・コース。今回は髪と髭をモジャモジャ伸ばして大胆にイメチェンし、メガネ&頭脳派&不自由な右腕という組み合わせでインテリ系に様変わり。
脇を固めるのは彼だけではありません。頭脳派3人組、娘&彼氏、ひょんなことから助けた青年。彼らそれぞれに素晴らしい味があります。オドオドしたり、捲し立てたり、不安になったり、宥めすかしたり、悲しんだり、笑ったり……といった演技のおかげで、マッツの放つ終始刺々しく苛立った雰囲気を幾分和ませてくれる、欠かせない存在なのです。


はてさて、そんな出演者たちの名演はとりあえず置いておいて、本作の根幹である「偶然なのか?違うのか?」という点について、感想を垂れ流したいと思います。
私は、本作を見ている最中、グザヴィエ・ドラン主演の『神のゆらぎ』を思い出していました。それは、「神の意志が介在するなら、こんな不幸はなぜ起きるんだ?」というテーマが、本作でも問われていたからです。

『神のゆらぎ』は、信仰心・信念・考え方等の、何者にも不可侵の聖域たる"個人の世界"、その内面へ内面へ掘り進めていくような作品でした。「神さまのきまぐれを、私たちは奇跡と呼ぶ」という惹句も、自分の見方・考え方次第という意味で考えると、とても印象的です。

一方本作では、「神の話なんてするな」と断じて、責任の所在を明白にする=何者かが仕組んだことと信じ込むことで、外へ外へと怒りをぶつけていきます。全く違う方向性ですね。
「これは偶然ではない」と信じること、他者のせいにして、悪者を作り出すこと。これは場合によっては真相究明の正道、または非常に甘美な逃げ道となります。
私は大体後者ですw内心不平不満タラタラで、世の中が悪いわぁ〜なんて思って、心を守っていたりします。世の中が変わらないなら自分を変えなきゃいけない。わかっちゃいるけど難しい〜。

話が脱線しました。

マークスの荒れる心は、落とし所を求めています。不合理で不平等で不幸、そんなのおかしい!間違ってる!という怒りの炎は、心の中でメラメラと燃え上がります。
そこに現れた不審な男たちが、自分の望んだ"外的原因"を携えてやってきた。まさに天の使いとその福音。
さあ内なる衝動を解き放つべく、憎き敵へと暴力を解き放ちにいこう!心の炎にガソリンをぶっかけ、手がつけられない暗黒面へと邁進するマークス。
相手が犯罪組織という点も、公然と処罰を下す大義名分を与えてくれたため、不幸中の幸い。
でも、味方だと思ってた学者トリオは日和始める、娘との関係性は急速に頭化する、行いの正当性に疑問符がつく、暗雲はますます立ち込めるばかり。そして迎えるクライマックス……。果たして、マークスの"正義"は正しかったのか?

そこには、一人の男の苦しみと、それを外部へ吐き出せない"強さ"がもたらす悲哀があります。
彼の内側に鬱積した感情は、ドロドロと怒りの渦を巻き、暴力衝動となって外側へ発露しましたが、それは本当の救いになってませんでした。
洗面台で顔を洗い、鏡を拳でぶち割って、バスタブを殴り、壁を殴り、殴り、殴り、殴り……。そうして力を解き放った後、絞り出された悲しみの涙。本当の救いは、その涙の中にこそあった。最初はそれに気付けない。今ならそれもわかる。しかし全ては遅すぎた……。

なんとも辛く、苦しく、悲しい話ですね。
(殺されたROJの面々は哀れですが、カタルシスと精神の浄化のための舞台装置として、スマンが死んでくれたまえ。)
ここまで「偶然なのか?違うのか?」という点から、マークスの内側をつらつら書いてきましたが、結局のところ、「受け入れ難い真実(偶然)を認めることで前に進める」という解を示しつつ、「先に進むかは自分次第だ」という道も見せ、ただし「些細な行動が生み出す運命的な偶然の連鎖(バタフライエフェクト)のやるせなさを忘れてはいけない」というところまでを、丁寧に見せてくれた本作には、とっても良い映画だったなぁという並な感想しか出てきません。

マークス以外にも、学者トリオの抱える三者三様のトラウマ、母を失った娘の悲しみ、性の捌け口にされてきた青年の達観……といった多様な苦しみが、本作を更に奥深いものに仕上げているのですが、長くなりましたのでとりあえずここまで。
個人的には『アナザーラウンド』よりも面白かったと思います。是非ご鑑賞ください!


【備忘:出演者】
マッツ・ミケルセン: マークス・ハンセン役
ニコライ・リー・コース: オットー・ホフマン役
アンドレア・ハイク・ガデベルグ: マチルデ・ハンセン役
ラース・ブリグマン: レナート・ガーナー・ニルセン役
ニコラス・ブロ:ウルフ・エメンタール役
グスタフ・リンド:ボダシュカ・リトビネンコ役
ローラン・ムラ:カート・“タンデム”・オーレセン役
アルバト・ルズベク・リンハート:シリウス役


「あなたには娘への責任がある」
「あんたはできたのか」
「いいや、できなかった。バカだったから。後悔ばかりだ」
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