平野レミゼラブル

ストレイ 犬が見た世界の平野レミゼラブルのレビュー・感想・評価

ストレイ 犬が見た世界(2020年製作の映画)
3.2
【犬も歩けば…】
トルコ・イスタンブールは人口1500万人に対して13万匹の野良犬が暮らす野良犬天国とも言える街。というのも、1909年の行政の野良犬大虐殺への大反発以降、保護に方針を転換した経緯があり、2004年からは野良犬の捕獲や殺処分が完全禁止となったからです。
かつて日本で行われた生類憐みの令の顛末を知っている部外者からすると「極端から極端に振るのも正直どうなんだ!?」とは思うのですが、本作で犬の目線から描き出されるイスタンブールでは、人々は街を行き交う犬を自然と受け入れており微笑ましい共存が成り立っているように思えてきます。実際、街を闊歩するのは政府によってワクチンや避妊手術などを受けてタグをつけた野良犬であり、管理面はかなりしっかりしていると言えるでしょう。

『ストレイ 犬が見た世界』は愛犬家でもある監督のエリザベス・ローが、2017年にイスタンブールに滞在した際に、この自由な野良犬の在り方に感銘を受けて完全犬視点でカメラを回したドキュメンタリー映画となっています。
動物主観のドキュメンタリーでは、僕は観ていませんが昨年度にも農場に暮らす母豚を追う『GUNDA/グンダ』がありました。ただ『GUNDA』が予告を観る限り農場から出ることはなく自然を体感するような描き方に対して、『ストレイ』は人間に混じって暮らす犬ならではの混沌が広がっています。良くも悪くも複雑な人間の日常を自由に生きる犬目線でシニカルに抉っているんですね。


ロー監督が追った人間の観察者たる犬は3匹。ロー監督が映画を撮るきっかけになったという薄茶・中型のゼイティンと、その友達でやや白めの茶に黒い顔・中型のナザール。そして、黒ぶちで皆から愛される子犬のカルタル。また、彼女らの気ままな暮らしの中で出会うゴミ収集のおじさんや、難民の少年たちも現在のトルコの気風や抱える問題を自然に伝えてくれます。

しかし、映画を観て驚いたのは、マジでこれってナレーションや解説もなしに犬の視点で街の様子を見ていく“だけ”の作品なんですよね……この手のドキュメンタリーは今まで観たことなかっただけに、割と驚きというか、どのように観ればいいのかという「お作法」がイマイチわからず、正直困惑のが勝りました。いや、勝手に動物の気持ちを洒落臭く吹き替える動物バラエティよか兆倍良いんですけど!!


なお、作中で頻繁に犬に関する名言が引用されるシノペのディオゲネスは、アレキサンダー大王と同時代に生きた哲学者(因みにシノペは現トルコ北部)。犬好き……というより「人間は犬のように暮らすべきだ!」と主張して実際に樽の中で本能のままに生活をした犬儒派の奇人です。


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犬も歩けば『ストレイ 犬が見た世界』感想
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