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パワー・オブ・ザ・ドッグのBeSiのレビュー・感想・評価

パワー・オブ・ザ・ドッグ(2021年製作の映画)
4.8
隠れた名作 No.6
「パワー・オブ・ザ・ドッグ」

少しはタイムリーな作品のレビューを書いた方がよろしいかという事で、本作を急遽鑑賞しました(本日の朝に)ジェーン・カンピオン監督の新作。NETFLIX独占配信中です。本予告の編集が上手すぎてかなり観賞意欲が高まっていたので、期待値も高めで観始めたら、為て遣られました。これは凄い映画を観てしまったぞ......以下レビュー。ネタバレ注意。

威圧的だがカリスマ性に満ちた牧場主。弟の新妻とその息子である青年に対して冷酷な敵意をむき出しにしてゆくが、やがて長年隠されてきた秘密が露呈し......。


どこから絶賛すれば良いのか分からないくらい素晴らしい点が多かったのですが、1つずつ書いていきます。ちょっと長いよ⚠️

✔上下内外の画面構成
本作で度々繰り広げられる上下内外の画面構成は、極力、登場人物たちの関係性が説明的にならないように、彼らの上下関係または心理描写を補っている。

"上下" で言うなら、主人公フィルに焦点を当てると分かりやすい。言わずもがな、フィル・バーバンクという人物は圧倒的なカリスマ性を誇るものの、自分と異なる境遇にある人間に対しては高圧的な態度や敵意を示し卑下する冷酷な男。そしていかに彼が力を持っているかが、上下の画面構成によって明確化している。階段から、二階の窓から、馬の上から......悪役の非情な様をこのような手法で記憶に焼き付けてくる点には驚かされた。ベネディクト・カンバーバッチの圧倒的な演技がキャリア史上最高と言われているのも納得。本年度はウィル・スミスがアカデミー賞最有力候補って言われてるけど、僕はベニーに取ってほしいって思う。大好きな俳優さんなのでね......これ切実。"内外" で言うなら、本作の主要人物である母ローズの息子ピーターを加えて観てみると良い。ピーターはローズと同様、カウボーイや乗馬というものとは縁が無い点から、外を象徴する存在であるフィルとは対照的に、この2人は内を象徴する存在であることが強調されている。

こういった画面構成で登場人物たちの関係が表されているのは、この映画の唯一無二の魅力と言えよう。

✔映像で語るという一貫性の素晴らしさ
本編では描かれてはいないが、この場面でピーターの決断が垣間見えたような気がする。一度は外の世界へ出たピーターだったが、やはり彼の信念がそれを許さなかった。それは、母を守るという信念である。フィルという1人の男によってアルコール依存症にまで追い込まれたローズ。時には自身の手で外の世界の秩序を乱したこともあった。彼女をそこまでさせたのは誰のせいか。

ピーターは、母を守るという使命が根底にあったからこそ、フィルを自身の手で下したのだった。冒頭のピーターの台詞そして炭疽病による狼の死という伏線を回収しましたね。解放を手に入れたローズの幸せそうな姿を見て笑みを浮かべたピーターが、ついにフィルが居なくなり、"力" を勝ち取った構図で締まったラストも鳥肌。コディ・スミックの脅威的な演技の真髄が見えた瞬間でした。やはり、台詞の少ない中で、映像だけでここまで人間の怖さを表現してしまうのには感心する。



映画界の巨匠による眩いばかりの巧みな業。並外れたものに過ぎない素晴らしい傑作。アカデミー賞総ナメしてくださいお願いします。あとトーマシン・マッケンジーほんまに可愛い死んだ。
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