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ベルファストのYYamadaのレビュー・感想・評価

ベルファスト(2021年製作の映画)
3.7
【ヒューマンドラマのススメ】
 ~映画を通じて人生を学ぶ

◆作品名:
ベルファスト (2021)
◆主人公のポジション
分断されたベルファストの街で、
 逞しく育つ9歳の少年
◆該当する人間感情
 平穏、動揺、憂い、好奇心

〈本作の粗筋〉 eiga.comより抜粋
・ベルファストで生まれ育った9歳の少年バディは、家族と友達に囲まれ、映画や音楽を楽しみ、充実した毎日を過ごしていた。笑顔と愛に包まれた日常はバディにとって完璧な世界だった。
・しかし、1969年8月15日、プロテスタントの武装集団がカトリック住民への攻撃を始め、穏やかだったバディの世界は突如として悪夢へと変わってしまう。住民すべてが顔なじみで、ひとつの家族のようだったベルファストは、この日を境に分断され、暴力と隣り合わせの日々の中で、バディと家族たちも故郷を離れるか否かの決断を迫られる…。

〈見処〉
①明日に向かって、笑え!——
・『ベルファスト』は、2021年製作のアイルランド・イギリスのドラマ映画。
・本作は、俳優・監督・舞台演出家として世界的に活躍するケネス・ブラナーが、自身の幼少期の体験を投影して描いた自伝的作品。
・ブラナーは出身地である北アイルランドのベルファストを舞台に、激動の時代に翻弄されるベルファストの様子や、困難の中で大人になっていく少年の成長を描くにあたり、「僕がベルファストで育った時は、よく雨が降っていた。街の色合いは灰色。空は、炭や暗い灰色だった。ベルファストは、カムチャツカ半島中部と同じ緯度で、かなり寒い。モノクロ撮影は、当時の記憶を呼び起こすためのものなんだ」と語るように力強いモノクロの映像で綴っている。
・批評家から高く評価された本作は、アカデミー賞の前哨戦として名高い第46回トロント国際映画祭で最高賞の観客賞を受賞。第94回アカデミー賞でも作品賞、監督賞ほか計7部門にノミネートされ、脚本賞を受賞した。

②ケネス・ブラナー
・1960年に北アイルランド・ベルファストに産まれた本作監督のケネス・ブラナーは、本作同様に9歳の時に家族と共にイングランド・レディングに移住。
・王立演劇学校を首席で卒業したブラナーは、23歳の時にロイヤル・シェイクスピア・カンパニーに参加。
・1989年公開の『ヘンリー五世』で、映画監督デビュー並びに初主演を務めたブラナーは、大胆な脚色やリアリティーある作風で高い評価を獲得。29歳にしてアカデミー監督賞と主演男優賞にダブルノミネートされ、「ローレンス・オリヴィエの再来」と呼ばれ、シェイクスピア俳優として広く認知されるようになる。
・その後、短編映画『Swan Song』(1992)でアカデミー短編映画賞にノミネートを受け、4時間を超える超大作となった『ハムレット』(1996)ではアカデミー脚色賞にノミネートされるなど。シェイクスピア作品の映画化で高い評価を獲得する。
・俳優としては、2001年放送のテレビ映画『謀議』でエミー賞主演男優賞を受賞。『ハリー・ポッターと秘密の部屋』(2002)では、魔法学校のインチキ教師であるギルデロイ・ロックハート役のコミカルな演技が話題となり、『マリリン 7日間の恋』(2011)では、敬愛する俳優ローレンス・オリヴィエを演じ、アカデミー助演男優賞にノミネートされる。
・監督業では『マイティ・ソー』(2008)、『シンデレラ』(2015)とヒット作品を連発。2017年には監督と主演を務めた『オリエント急行殺人事件』では、豪華キャストと原作の話題性から日本でも大ヒットを記録。
・そして、2021年には自身の幼少期を描いた半自伝となる本作『ベルファスト』を発表し、94回アカデミー賞で脚本賞受賞を果たす。これまで個人としてアカデミー賞史上最多となる通算7部門ノミネートを経験しながら受賞に至っていなかったブラナーにとって初めての受賞となった。

③結び…本作の見処は?
◎: プロテスタントvs.カトリック、アイルランド陣営vs.グレートブリテンなど、分断されたコミュニティの壮絶な内紛の世相を少年のファインダーを通じユーモラスに描かれた力作。
○: モノクロ作品の劇中に登場する『恐竜100万年』『真昼の決闘』『スタートレック』『チキチキバンバン』などの出典映像はカラーで演出。娯楽作品が緊迫した日常社会を和ます存在であることが表現されている。
▲: 終盤の展開は「余韻を残すもの」か「物足りなさ」なのか評価が別れるところ。

④本作から得られる「人生の学び」
・未来をとるかアイデンティティーをとるか…人生の岐路の判断軸はしっかりもとう。
・育てられる立場、育てる立場、育て終わった立場…家族との関係は、それぞれもどかしい分、いまの瞬間を大切にしたい。
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