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ヴェラは海の夢を見るのbackpackerのレビュー・感想・評価

ヴェラは海の夢を見る(2021年製作の映画)
4.0
第34回 東京国際映画祭 鑑賞15作目

これが監督の長編デビュー作とは……恐れ入ったぜ、凄すぎる……。

ヨシップ・ティトーにより旧ユーゴスラヴィア社会主義共和国連邦が誕生し、『同胞愛と統一』を掲げて安定していた時代は、彼の死と共に瞬く間に瓦解。各地域毎に独立の為の戦争が展開されます。所謂ユーゴスラヴィア紛争です。
セルビア統治下からの解放・独立を目指したコソボは、1999年まで大規模紛争が続いており、戦争は大変近しい存在。ヴェラのような年代の人には、まさに戦争は地続きのもの。

そんな時代を生き抜いてきても、世界は男性中心に回り続ける。その上、夫の死によって突如として不条理な現実に晒されることになるヴェラの必死の抵抗・挑戦が眩しいです。
ヴェラは娘たちのような、戦争から少し距離のある第1世代や、戦争を知らない孫娘のような第2世代とは違うため、ジェネレーションギャップから反発を受けるのは致し方ないですが、それでもなんとか、ことを荒立てず、しかして叶えたい希望の為に戦っていこうとするヴェラの力強さには胸が打たれます。
静かに凪いだ海の夢は、心を平静に保つことなのか、はたまた押し殺した心の涙に溺れる様なのか。
「母に捧げる」の一文で、カルトリナ・クラスニチ監督の目を通した家族の自伝的映画だったのかとわかり、いやはや驚愕です。


これは余談ですが、旧ユーゴスラヴィア圏に建設された巨大建造物"スポメニック"が好きでして、無味乾燥とした質感でありながら、独特で他に見たことのない各種作品には圧倒されます。興味のある方は是非検索してみてください。『最後にして最初の人類』では、ヨハン・ヨハンソンの超重厚な音楽と共にたっぷり映像が楽しめますので、併せておすすめいたします。
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