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母の聖戦/市民のbackpackerのレビュー・感想・評価

母の聖戦/市民(2021年製作の映画)
4.0
第34回 東京国際映画祭 鑑賞18作目

2021年のTIFFで鑑賞した中では最長の135分ながら、その長さを感じさせない濃密な映画時間となりました。

ーーー【あらすじ】ーーー
舞台はメキシコ北部。
娘と暮らすシエロは、突如犯罪組織に娘を誘拐され、別居中の元夫に頼み込み身代金15万ペソに近い金額を用意するが、娘は戻ってこず。
失踪事件が膨大に発生する環境のため警察も役に立たない。シエロは自らの手で娘を取り戻すべく、裏社会の調査を開始するが……。
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ごく普通の母親、ごくごく普通の中年女性、そんな人物が、娘を探し出すために修羅の道へと突き進み、料理の香りとまな板と包丁が刻むリズムから、血と硝煙の匂いと銃声が鳴り響く暗闇へ邁進していきます。
地道な張り込み・備考・聴き込みを経て、軍の部隊と帯同することができるようになったシエロ。
首無し死体の確認に安置所に急行するシエロ。
いくつもの人物をしょっぴく中には、娘とそう変わらぬ年齢の女たちも。彼女たちに口を破らせるための激しい暴行を目の当たりにしたシエロ。
夫とは旧知の男の裏切りを知り、彼を自ら痛めつけ真実を知ろうとするシエロ。
長く伸ばしていた髪を切った彼女には、それまでから格段に上がった覚悟をたたえた瞳がぎらつきます。

炎と砂と悲しみの果てに、彼女がたどり着いた真実の、救いなき無常感。
我が子のために、母はどんなことでもする。
これ、同じくTIFFアジアの未来部門にて公開された『ASU:日の出』と、実は同じ切り口なんですよね……。

実話にインスパイアされて生まれた物語ということもあり、メキシコの暴力的荒廃の恐ろしさを改めて痛感させられる、息もできない135分でした。

ラストシーン、庭先でタバコを吸う彼女の前に現れたのは、果たして誰だったのだろうか……。
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