色恋ってやっぱり面倒くさいな。人と一緒に生きていくと決めたのなら、おいしいところだけを頬張るだけではいけないから。どんなにすきな人でも、嫌なところや我慢できないことがあらわれてしまうからぶつかり合って>>続きを読む
たった今生まれた言葉を、ひとつもこぼさないままで誰かに渡せたなら。たぶん彼女は、その兆しを待っていたのだと思う。
言葉を身体の奥底に沈ませ、泡沫になる前の感情を、切ないほどにうつくしい旋律を、海を眠>>続きを読む
それでも楽しい時間を過ごしてきたのだと、この家族を光が囲んでまたたいていた。歌っている顔とこころのうちは違う。うつくしい記憶は、必ずしもあたたかなやわらかいものだけではなく、目を逸らすことのできない暴>>続きを読む
話すことができなくなっても、ことばは失わない。その目が、表情が、全身が、その身が表すダンスが、力強く物語っていた。まわりが自由を奪っていっても、ほんとうにはひとつの存在を縛ることはできないのだと思う。>>続きを読む
おおきな器がそこにあって、降ってくるものやこぼれ落ちるものをすっと受け止めていくような、やさしい作品だった。不可抗力で抱えなくてはならなくなった苦しみや傷を、それぞれ見せないだけで持ったまま、月曜にな>>続きを読む
誰かを赦すことよりも先に、それぞれが自らを赦すこと。自らのうちにある憎悪も怒りも悲しみもないものとせず、加害してきた対象を簡単に赦さないまま、安全な距離をとってこれからを生きていくことを選ぶこと。>>続きを読む
自分で決められることはあまりに少なく、理不尽は誰かをわたしたちとして絡め取りながら数多の可能性を奪う。もうなにもないよと言っても、つめたい顔でやってきては、こころのろうそくを一本ずつ吹き消して去ってい>>続きを読む
わたしは何度でも、わたしになって生きていく。大切なものを抱きかかえて、覚悟を決めたつもりでやってきた場所であっても、いつの日か息苦しくつらい場所に感じてしまうことがある。ここにいる、ということが苦しく>>続きを読む
ざらついた砂のような青い記憶。大切にしまっておいたはずなのに、それはさらさらと淡くなっていく。もう眺めることのできない父親の背中は、あの時も諦めたようなやさしいような佇まいでわたしの前にいてくれていた>>続きを読む
大切だと拾い上げたそれも、いつのまにか必要ではない何かにされて切り捨てられていく。必要と不必要の残酷な線引きによってどんどん無駄はなくなるけれど、ものにのせられた記憶や思いにも鈍感になって忘れてしまう>>続きを読む
わたしたちは迷路に迷いこむように日々を生きながら、たしかに行きつくべき場所へと向かっているのだった。社会というなにか大きなものの一部になるために、それぞれがいさんで役を演じきろうとした。急いでわかりや>>続きを読む
生きていることと死んでしまったことの境界はどこなのだろう。幼い頃からずっとわからないのだけれど、夏は死の匂いをとても感じる。
父親が亡くなったのも、夏がその年最後の力を振りしぼっていたころだった。も>>続きを読む
成瀬監督はいつもどきりとする男女の一瞬を切り取るが、明確な善悪や裁きを描かない。
菊子が幸福そうに見えるのは義父と一緒にいる時だけで、他は虚な目でどこかわからない場所を見つめている。当の夫はそんな妻>>続きを読む
思い描いた未来は夢のように遠い。なぜこうなってしまうのだろうと、ひとり物思いにふける大人たちもかつて子どもだった。年を重ねればわかることは増えても、すべてわかるわけではない。心許なさはあの頃のままある>>続きを読む
冒頭から涙が溢れてきて、ずっとありがとうありがとうと思いながら観ていた。いちばん大切なものを思い浮かべたり、こころの奥深いところにあるシェルターでともに過ごしてくれた映画や音楽や本に思いを巡らせた。わ>>続きを読む
せわしなく過ぎていこうとする日常を生きているうちに、いつしか脳内にうるさく聞こえるようになった秒針がきっかり毎秒を刻む音。そうせざるをえないという観念に凝り固まって、自分が息苦しいことに気がつかなくな>>続きを読む
いつも曇り空のなかを諦めて佇んでいるかのようなまなざしは光らない。閉塞的な彼ら彼女たちの日常には、音楽だけが楽しげに響いていて、詩がしずかに心をなぞっていく。ほんとうの幸せを知る前に用意されていた誰か>>続きを読む
今、こうしている間にもこの地球では戦争はなくならずに、個人の意思や価値観とは関係ない国家とかなにか大きな声のもと、人が人を殺さなければいけない現実がある。その影では、命を奪われることと同等の苦痛をとも>>続きを読む
叶わないことばかりが、雲のようにふくらんでいくようで切なかった。赦されないことばかりしてきましたと、同じまなざしをして空をあおぐ。過去と現在は切り離せず、奥底に沈めておくしかなかった少年のころの純粋さ>>続きを読む
憧れに着られるようにして生きてきた少女が、自分を生きていこうとするまでの過程。演劇は舞台上だけではなく、現在も続いていく日常そのもののことだった。
わたしたちの日常というものは、かならずしも正しさの>>続きを読む
どうか幸せでいてほしい。人がその人として生きていることがこんなにもうつくしく、その人でいられなくなるのはどうしても哀しい。大切に思う気持ちだけ濁りなくあるならよかったけれど、憎悪や淋しさがマーブル状に>>続きを読む
わたし自身を生きることは、自分だけの孤独を生きることであり、器としての肉体を生きることではない。このことにずっと救われてしまうな。自分の足で歩いて行き着いた先で出会ったり別れたりして、気づいたら足の傷>>続きを読む
恋はいつかタネがわかってしまう手品のようなものなら、明かされないうちに夜を楽しもう。振り子のように無邪気に行き来してついた傷が煌めくから、少女は昨日より大人の顔をして朝を迎える。愛ってよくわからないけ>>続きを読む
やさしさは難しいって思う。
自分がやさしくしたいと思ってやったことでも相手に伝わらなければ、それはやさしさにはならないのだと、大学生のころの友人が泣きそうになりながら話してくれたことを思い出した。そ>>続きを読む
男性であり、父親であり、敬虔な信奉者であったスパイダー・キラーの彼は、強くなって認められなければいけないのだと思わされすぎていた。行ったことは許せないけど彼もまた、男性社会のしくみに苦しんでいたのかも>>続きを読む
毎朝うまれなおすみたいに目が覚める。少しあきらめたいくつかのことを思い出して、まだはじまってないからなと思ったりする。目の前にはまだ切られていないぴんとしたテープがあって、わたしが走るならそれはきっと>>続きを読む
これは通り過ぎてしまった何かではなく、今もたしかにここにある自分についての物語だった。確固たる自分なんてほんとうは存在しなくて、いつまでも波や砂の城のように自分自身は変わっていく。つかまえても、つかま>>続きを読む
絶対に忘れたくなかった記憶が、少しずつ消えていく。そのなかにいる人のことを変わらず大切に思いながらも、朧げになっていく輪郭。何気ない日常の断片が、現在ではセピア色の映画のよう。他人に話しても理解しても>>続きを読む
たぶんわたしたち、自分でも知らないうちに傷ついていた。簡単に説明できてしまうことだったならどんなによかったかと思う。その人自身でなければわからないことが数多くあって、それに似たものをつきとめられたとし>>続きを読む
もしもこの世界が今よりも素晴らしくやわらかな繭のようなものだったなら、あなたは傷ひとつないまっさらなままでいられたかもしれない。あなたのまっすぐな目が、今でも自ら凛と光り続けているその目が、今よりも冬>>続きを読む
どこにも行けなかったわたしたちは、どこにでも行けるようになっても苦しかったね。この世界はあまりにも表層だけしか見ないから、奔放さはやさしさの裏返しだったし、真面目さは激しさの別の面でしかないことに気が>>続きを読む
あつい紅茶がいつのまにか冷めてしまうように、あんなに空を染めていた夕陽がすっと沈んでしまうように、わたしたちは生きているのだから同じではいられない。変わり続けることを約束されていながら、その速度の体感>>続きを読む
たぶん思い描いた未来のなかを思い描いた通りに生きられている人はとても稀で、少しずつズレた場所で年を重ねるうちに平気な顔がうまくなっていきながら生きていくほうが多いのではないだろうか。でもそれを悲しいと>>続きを読む
今その時を迷いも悩みもしながら生きているからこそ、煌々とエネルギーが外側を照らす。そのことを見つけてもらおうとしなくても、同じ光を放つ者同士なら、引き合う星々のように見つけられる。それをもしも運命と呼>>続きを読む
ほんとうはこの世界とどこかとを隔てるものなどないのだろう。だから、怪我を気にせずに裸足で駆けまわることも、うるさいくらい幽霊たちの動く音を聴くことも、なんにもおかしいことじゃない。ある日いきなり投げ出>>続きを読む
闇を泳ぐ白と黒は詩を綴って消えていく。どこからきて、どこへ向かうのか。生きて死ぬ、という事象を超えてしまった者の行く末。映画という芸術に取り憑かれるようにして、我々はいくつもの扉を見つけては、おそるお>>続きを読む