"人間讃歌"
NHK朝ドラ史上初、「3人の女優が」「別々のヒロインを」「時代別に演じる」という内容で、放送前から話題性の高かった本作。
人類の「受け継ぐ」という行為に対して美学というか、なんとも言語化しがたい「美しさ」を感じてしまうワタクシ。
愛読している漫画作品『ジョジョの奇妙な冒険』にもよく似た、「先祖代々からの因縁」とか「合縁奇縁」から生まれる、壮大でいて・かつ実際にあってもおかしくない、人間ドラマを見せてもらった。
もう本当に、テレビ画面の前で何度泣いてしまったか分からない。
✏️日向の道を
物語は1925年(大正14年)、岡山に店を構える和菓子店・たちばなの一人娘<橘安子>から始まる。
家族からいっぱいの愛を受けて育った安子のまっすぐさ、地元の名家・雉眞家の跡取り息子である<雉真稔>との身分違いの恋、そして今後のドラマを大きく左右することとなる「英語」との出会い。
耐えがたきを耐え、忍びがたきを忍び---終戦を迎えた日本。
出征先で戦死した稔に代わり、一人娘の<るい>を育てなければならない安子。
戦後、日本国民ほぼ全員が貧困と飢餓にあえぐ中、父から教わった「和菓子づくり」で急場を凌ぐ安子。
ここで急に余談を挟むと、私の祖母も女手一つで娘---つまり自分の母---を育てた。
ひもじいながらも、どこか明るく元気に、女手一つでるいを育てる姿に自らの祖母の姿を重ねてしまって、滂沱の涙を流すほか無かった。
懸命にるいを育てる安子だが、とあるボタンの掛け違いから母子の関係は破壊されてしまう。
るいは額と、そして心に癒えぬ傷を負いながらも一人の女性として成長していく。
✏️響けトランペット
半ば「トラウマ」を抱えた状態で成長したるいは、あえて雉眞家の世話にはならず一人で生きていく決意を固める。
岡山を離れるも大阪での就職活動がうまく行かないるいは、ひょんなことからクリーニング店を営む心優しき夫婦と出会い、同店で住み込みで働き始めることとなる。
このクリーニング店の夫婦の二人が、本ドラマ影の功労者だと思う。
素性も何も分からないるいを優しく受け入れ、まるで「自分の娘」のように育て、バックアップしてくれた。
かつ、夫婦二人のやり取りはまさに「夫婦漫才」を見ているようで、心に影を落とするいを明るく照らしてくれるようで、とても心癒された。
やがてるいは、後に夫となるトランぺッター・大月錠一郎(ジョー)と出会う。
個性豊かなジャズ喫茶の仲間たちとの交流を通し、るいは自らの過去を振り返り、今後自分がどう生きるべきかについて真剣に悩む。
紆余曲折ありつつもジョーと結ばれるるい。
二人は大阪を離れ京都へ移住するが、定職は決まっておらず社会的に不安定な立場。
そんな窮地を救うのが、これまた母から教わった「和菓子を作る技術」であった。
日々自転車操業ながらも充実した日々を送り、二人はいわゆる理想とされる子の持ち方---一姫二太郎、つまり娘の「ひなた」と息子の「桃太郎」を授かることとなる。
✏️武士の一分
定職に就かず、今風の言い方で言う「主夫」となったジョーの影響からか、時代劇---「侍」に対して熱狂的とも言える愛を持つひなたが主人公のパート。
本作で唯一、「ちょっと蛇足かな」「勢いが落ちたな」と感じてしまったパートでもある。
物語の途中まで「英語との関わり」というものがちょっと薄く感じてしまった。
安子やるいに比べて、ひなたがご都合主義的に格段に英語の上達スピードが上がったのも気になる。
とはいえ、「全ての運命が集結する」…あ、某蜘蛛男のヒーローは関係ないけど、そんな言葉が相応しいこのパート。
『カムカムエヴリバディ』を語る上で、当然欠けてはならないピースの一つであることは間違いない。
自らを形成してくれた、「好きなこと(=時代劇)」を職業にするひなた。
恋に仕事に、全てのことに対して一所懸命に取り組むひなた。
「家族の命運」をまとめるため、奔走するひなた…
「日向の道を歩いた」からこそできる役回りを全うしたひなたの姿がなんともまぶしく映るシーズンだった。
特に、最終週の5話ね…
今まで安子、るい、ひなたにゆかりのある人物が総登場。
親子三代がついに揃った時の感動と来たら。
5話分全部泣いてましたヨ。
あと、虚無蔵さん年齢不詳すぎん?
☑️まとめ
るいとひなたが、それぞれ自分の祖母と母に近い年代に生まれたこともあり、「命」ということについて考えさせられた作品。
いまある自分の「命」とは、戦争や疫病を乗り越え、先祖代々から懸命に繋がれてきた「バトン」である。
NHKが描く人間賛歌を、ぜひ多くの人に見てほしい。