平野レミゼラブル

イル・ポスティーノの平野レミゼラブルのネタバレレビュー・内容・結末

イル・ポスティーノ(1994年製作の映画)
3.4

このレビューはネタバレを含みます

チリから水道もないイタリアの小さな島へ亡命してきた実在の詩人パブロと、彼へ郵便を届けるマリオの心の交流を描いた作品。全体的に静かな作品なんだけれども、それだけに美しい詩と風景が心を打つ。荒木先生がブチャラティが一番好きな映画として設定した意味がわかる気がする。

イタリアの島の美しさと詩人と郵便員の素朴な友人関係。海辺を前に二人が語らうシーンがそれだけで画になる。
パブロはマリオの父親ほどに歳が離れてるし、マリオも最初は詩情がわからずパブロに呆れられる。しかし国を追われながらも美しい詩によって精神的に豊かなパブロにマリオは段々心惹かれていく。
マリオにとって『絶望』の閉塞でしかなかった島が、詩を覚えることによってどんどん美しく豊かな彩りを備えていることに気が付く過程がやはり良い。詩とは自分の中から産み出す美しい表現であり自我である。世界を変えるならば、まず自分自身が変わることの意味がここにある。
「君が詠んだ詩を別の言葉では表現できない」の通り、マリオはマリオの表現を手に入れ、自らの力で愛を勝ち取り、やがて島を脅かす政治家への反骨心をも芽生えさせる。

この映画のマリオには「何もない漁村の漁師の息子」というブチャラティとの共通項があり、そんなところにブチャも惹かれたのだろう。何より胸に来たのがこのマリオの人生。彼は前述の通り、詩人と会って世界の美しさと闘う意志を学ぶのだが、その為に若くして命を落としてしまう。
詩人に会わなければ彼はこの何もない島で長生きできただろう。でもそれはただ漫然と生きているだけ。詩人に出会うことで彼は初めて真に『生きる』ことができた。そこにジョルノと出会うことで『眠れる奴隷』から目醒めることができたブチャラティの生き様を見出すことができた。

マリオを演じたマッシモ・トロイージは撮影終了の12時間後に亡くなったという。彼もまた生命を投げ打ってでも『表現』に生きた詩人だったのだろう。「今度は僕の最高のものをあげるからね」という最期の言葉が胸に突き刺さる。彼の人生にも敬意を評したい。