シムザスカイウォーカー

聖地には蜘蛛が巣を張るのシムザスカイウォーカーのネタバレレビュー・内容・結末

聖地には蜘蛛が巣を張る(2022年製作の映画)
3.3

このレビューはネタバレを含みます

事件を追う記者を通して、見えてくるのは宗教の蓑に隠れたミソジニー。個人的な思想を宗教に重ねた犯人は、女性を殺すことを正当化する。同じ時代を生きている女性がこんな理不尽な目に遭っているのだと思うと怒りが収まらない。

日本も女性に対する懲罰意識が根強い国だから、女性が被害者の場合には被害者叩きが起こる。先日も経営者の若い女性がストーカーに殺されたが加害者を擁護し"殺されて当然"という書き込みが後を絶たなかった。女性を罰したい、女性は叩いても良いと考えている人間が世の中に山ほどいることがショックだった。この作品で起こる出来事は遠い国の他人事とは思えなかった。

簡単に女性が1人でホテルに宿泊することもできない場所で、女性にまともな職業があるとは思えないが、登場人物の殆どは政治や社会構造のせいだとは言わない。売春せざるを得ない状況に女性が晒されていることや、女性を買う男たちは都合良く見えないことにして、娼婦殺しを正当化する犯人と民衆。この歪さに気付いているのはラヒミだけで、こうした社会の歪さもまた日本と同じだ。

警察署長?はラヒミの厳しい追求に話の内容とは関係ない自分の苦労話を始め、己の無能さを認めず逆上。判事までもが彼女の態度がどうとかトーンポリシングの上に偏見を披露し始め反吐が出る。

さらに、ラヒミが職を変えた理由もまた醜悪な男たちによるものだったという胸糞の嵐。

「私が記事を書きたいと思うと、彼はいつも残業させた。寝室へ誘い込むために。私が上に報告したらクビになった。犠牲者の私を叩くの?」

私の周りにもセクハラの被害を訴えたところ、セクハラの事実は認められたものの「◯◯さんはもうすぐ定年だから、クビにするのは可哀想。あなたが辞めればいい」と退職を促された友人がいる。本当に他人事じゃない。

どこにでもいる"普通の"父親が人を殺しをし、その現場で一家団欒の楽しい食事をする。死体になった女性を包んだ絨毯の上で。なんておぞましい描写なんだろうか。

ラストの数分、後を継げと言われた息子が妹を例に犯行を再現する姿が、恐ろしくてたまらなかった。ミソジニーが再生産されようとする瞬間を目の当たりにしたのだ。腹の底が重くなる。。