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アウシュヴィッツのチャンピオンのbackpackerのレビュー・感想・評価

4.0
夏と言えば、終戦。映画館にも、戦争関連映画が増える時期。
2022年は、ナチス・ドイツ関連映画の上映とタイミングが合うことが多かったのですが、ホロコーストをテーマにした映画としてはかなり珍しい「収容所の中で希望を胸に戦った男」の物語が、『アウシュビッツのチャンピオン』でした。

公式サイト及びパンフレットにも記載されている通り、本作の主人公タデウシュ・“テディ”・ピトロシュコスキの物語は、実話をもとにしたものです。
即ち、「アウシュビッツ強制収容所の囚人第一陣として収容され、看守やカポを相手にする賭けボクシングの選手として戦い、勝利し、生き延びた」という、奇跡の男の物語です。

2021年のホロコースト関連映画作品で印象的だったのは、『天才ヴァイオリニストと消えた旋律』でしたが、2022年の同ジャンルでは、本作が一番印象深い作品になる気がします。


そもそも、ホロコーストと強制収容所が舞台や設定とされている作品では、スポーツや娯楽といった側面での物語が展開されるのは、かなり珍しい部類。
近年の作品で、『栄光のランナー 1936ベルリン』が、ナチス政権下で開催されたベルリン五輪で4冠を達成したアメリカ人ジェシー・オーエンスを取り上げていましたが、ホロコーストとの関連性を考えれば、ちょっと異なりますよね。
(そもそも、黒人差別がアメリカでも猛威を振るっていた時代背景を踏まえると、『栄光のランナー』は本作との共通部分を有するが、全く違うジャンルにも属している、とも言える気が……。見返して、詳しく考える必要がありますね。)
そのため、他に似たような作品があるのか疑問だったのですが、パンフに渋谷哲也教授の寄稿があり、アウシュビッツのボクサー映画の系譜として、『生きるために』と『ヴィクター・ヤング・ペレス』という作品を挙げてくれていました。この2作はユダヤ人主人公ということで、ポーランド人のテディよりもさらに悲惨な境遇に立たされていたわけですが、ぜひ見てみたいなと思います。
こういった情報が入手できるという点でも、本作のパンフは情報豊富な部類(中身スッカスカのダメパンフと比較して)ではありましたので、ご興味のある方は購入&ご一読されてはと思います。


本作が持つ力強いメッセージ性、「どんな状況に置かれても諦めず、絶望に打ちのめされても立ち上がり、希望を胸に生きていく」という考えは、本当に素晴らしく、感動を覚えます。ただ、楽に流れ、信念も緩い自分が、こんな困難に直面したらと思うと……。
テディがいかに肉体的・精神的にタフネスであったか。想像もできない領域です。また、収容所内で親しくなった、顔立ちに幼さの残る青年・ヤネックとの、疑似的親子関係ともいえる友愛と、テディから強さを学んだヤネックの最後の勇気の偉大さには、涙が流れそうになりました。
再びどん底に突き落とされたテディが、焼け焦げた天使像を手に立ち上がり、力のこもった眼差しで前に進み始める姿の神々しさ。胸が熱くなります。
こういったシーンの積み重ねが、最後に映されるその後のテディへと結実していく、いや~よくできたドラマです。本当に感動しました。

「お前らはここに来た最初の囚人だ。出ていきたければ、火葬場の煙になるしかない」
「天に戻れるのは善人だけ」
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