福士蒼汰の初監督作　イツキトミワ　は、行間がやたら濃い。
肉体労働で家計を支え、かつて美大を志した青年・イツキと、ギャラリーで彼の絵を見つめるミワ。
出自や経済事情の影（介護・非正規・不安定さ）が台詞の外に置かれていて、人物は語られない余白で輪郭が出るタイプ。

画作りは徹底して顔。
アップ多用で感情を読ませるやり口は大森立嗣からの血統を感じるし、序盤からクローズドな距離で縛って、会話の温度差を肌感で見せる。 

モチーフとしての月も効かせていて、満月の光はロマンスの記号に見えて、実は膨張した感情の圧として画面を支配する。
夜がきれい＝安全じゃない。静けさが不穏を孕む。 

物語の芯は、「観る／観られる」の力学がいつ搾取に傾くかという倫理。
ギャラリーで始まり、創作に回帰する円環構造ゆえ、ミワの痛みはイツキの表現に変換される危うさと地続き。
創作は救いか収奪か？答えは出さないがけれど、ラストのキャンバスと身体のぶつかり合いは、供養の行動でしかない。
そこに快楽を読み込むか、後ろめたさを読み取るかで、この短編の温度は大きく変わるように出来ている。

語らないを支える構図が良く、階段や上下移動で関係の落差を見せ、空白の多い画面で二人の距離を測らせる。台詞は減らし、表情で運ぶ。
満月の下でかわしたささやきは、翌日には別の意味で記録になる。で、記録はいつか作品になって、作品は誰かの救いにも、誰かの二次被害にもなりうる。

創作の後味の悪さをちゃんと抱きしめていて、短編だからこその分かりやすさとその後の推察のし易さがとても好感を持てました。

福士蒼汰監督作。刹那的でプラトニックな恋愛の顛末。デビュー以来ずっとイケメンでキラキラしたイメージの福士君がどんな作品を撮るんだろうと気になっていたけど、彼の頭の中でこんな世界が考えられていたんだ…と、表面的にしか知らない彼とのギャップに唸った。清水尋也と芋生悠という組み合わせが優勝すぎるな、、シックな作りの恋愛映画に合う2人だ。

スト缶飲み干す伊澤沙織が観れただけでも満足。

伊澤彩織が出演ということで。
結構やりきれない話だった。