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雪子 a.k.a.

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雪子 a.k.a.の作品紹介

雪子 a.k.a.のあらすじ

記号のように過ぎていく29歳の毎日に、漠然とした不安を感じている小学校教師の雪子。不登校児とのコミュニケーションも、彼氏からのプロポーズにも本音を口にすることを避け、ちゃんと答えが出せずにいる。 ラップをしている時だけは本音が言えていると思っていたが、思いがけず参加したラップバトルでそれを否定され、立ち尽くしてしまった。 いい先生、いいラッパー、いい彼女に…なりたい?と自問自答しながら誕生日を迎えた。 でも現実は、30歳になったところで何も変わらない自分でしかない。それでも自分と向き合うために一歩前へ進んだ彼女が掴んだものとは―――。

雪子 a.k.a.の監督

草場尚也

原題
製作年
2024年
製作国・地域
日本
上映時間
98分
ジャンル
ドラマ
配給会社
パル企画

『雪子 a.k.a.』に投稿された感想・評価

本作は、「小学校教師がラップに挑戦する」というポップなあらすじの皮を被りながら、現代社会における「実存の回復」をめぐる、極めて切実で痛々しいドキュメントだと感じました。

一見すると、異色の音楽青春映画のように映ります。けれど、そこで描かれているのは、「教師」や「29歳の女性」といった社会的な役割に押しつぶされ、自分の言葉を失ってしまった人間が、どうにか呼吸をするための穴を穿とうとする姿です。

特に印象的なのは、主人公・雪子が抱える苦悩の質でした。劇的な不幸や貧困があるわけではない。けれど、マニュアル通りの対応、作り笑い、毎日繰り返される変わらない日常という「円環」の中で、自分の中身が少しずつ空洞化していく感覚がある。「絶望」と呼ぶには静かすぎるのに、確実に魂を摩耗させていく、その「少しの焦燥感」の描写が、ホラー映画に近いほど生々しく、観る側の肺をじわじわ圧迫してきます。

主演の山下リオが見せる演技の振れ幅も凄まじいです。「先生」としての仮面を被ったときの虚ろな目と、夜のラップで見せる必死な形相。その乖離こそが、現代人が抱える分裂そのものに見えました。
ラップはここで、単なるストレス発散や“かっこいい自己表現”としては描かれません。誰の心にも届かない「記号」としての言葉しか持てなくなった彼女が、自分の身体と感情を取り戻すために行う、ほとんど生理的な嘔吐に近い行為として映し出されます。

本作は、安易なサクセスストーリーを拒み、「何者か(a.k.a.)」になろうとする痛みを真正面から見つめます。その誠実さが、閉塞感の漂う日常を生きる私たちに、静かな連帯を手渡してくれる一本でした。




※以下、ネタバレを含みます。未見の方はご注意ください。











































物語の雪子は、学校では「吉村先生」という“記号”として生きています。保護者にはクレームの受け皿としての先生、管理職にはカリキュラムを回す歯車としての先生、生徒には「正解」をくれる大人としての先生。
そこに「雪子個人のしんどさ」や「みっともない本音」が入り込む余地はほとんどなく、彼女の笑顔はどこか貼り付いたままです。

そんな「記号としての先生」でいることに、言葉にしづらい違和感を抱えた雪子が夜に向かうのが、ラップの現場です。
ビートの上なら本音が言える。MCサマーとしてなら、“ちゃんとした先生”でいなくてもいい。けれど本作が通常の音楽映画と決定的に異なるのは、ラップを「魔法の杖」にしなかった点だと思います。

雪子はラップを始めますが、それですべてが好転するわけではありません。初めてのラップバトルで、彼女は対戦相手のアザミに完膚なきまでに叩きのめされます。ここで突きつけられるのは、「ただ本音をぶちまければアートになるわけではない」という冷徹な事実です。初期の彼女のリリックは、結局「言い訳」や「愚痴」にとどまり、形を変えただけの独りよがりでもありました。
だからこそ、この敗北を起点に、物語が「逃避」から「対話」へと質を変えていく構造が見事に効いてきます。

タイトルの「a.k.a.」は、そのまま雪子の分裂したアイデンティティの記号です。
雪子 a.k.a. 先生。
雪子 a.k.a. MCサマー。
そして、まだちゃんと名前を与えられていない「ただの私」。
本名の「雪子(冬)」と、MCネームの「サマー(夏)」が対になっているのも象徴的で、冷えきった現実から、熱を持ったどこか別の自分へ逃げたい願望が、ネーミングの時点でにじみ出ています。けれど映画は最後まで、「どちらか一方に脱皮してスカッと成功」みたいな答えを与えません。

その代わりに描かれるのが、「円環」としての日常の感覚です。
朝起きて、学校へ行き、授業をして、クレームを受け、家に帰る。同じレコードの溝を、針が何度も何度もなぞっていくようなルーティン。外から眺めれば安定した生活なのに、本人には「この溝のまま一生終わるんじゃないか」としか思えない。

ここで面白いのは、その“地獄みたいな円環”を、ヒップホップが持つ「ループ」の感覚で裏返していくところです。ビートは基本的に反復なのに、そこに乗るリリックが変わるだけで、一周ごとに違う瞬間になる。
「人は反復して生きていく。でも、その反復にどう自分の固有性を刻むか」という視点が、そのまま映画の骨格に落とし込まれているように感じました。

雪子のラップは、だから「円環から逃げ出す鍵」ではなく、「円環の上に爪痕を刻むための技術」として描かれます。
「不安を消す」のではなく、「不安を抱えたままグルーヴに変える」。この転回を、派手なカタルシスではなく、反復の質の変化として成立させている点に、本作の優しさとシビアさが同居しているように思いました。

そして、この映画の白眉とも言えるのが、不登校の児童・類との「ピアノ×ラップ」のセッションシーンです。
学校という規律の象徴である場所で、クラシックピアノという旋律に、ストリートの言葉であるラップが乗る。ワンカットで撮影されたカメラが二人を中心にぐるぐる回り続ける映像は、冒頭で提示された「退屈な日常のループ(円環)」が、肯定的な「グルーヴ」へと反転した瞬間を視覚化していました。

ここで雪子が紡ぐ言葉は、技術的に上手いわけではないかもしれません。けれど、そこには教師としてのマニュアルも、自分を守るための建前もない。「嘘がない」言葉だけがある。教育現場において本当に必要なのは、正解を教えることではなく、生身の人間として対峙することなのだという真理が、理屈ではなく感触として画面から溢れ出していました。
ここで言う「円」は、日常を閉じ込める円環ではなく、言葉を回し合う場としての円陣です。ヒップホップで言う「サイファー(円陣)」として、対等な対話が成立する瞬間でした。

結末において、雪子はラッパーとしてデビューするわけでも、教育界のカリスマになるわけでもありません。彼女は依然として、悩み多き公立小学校の教師のままです。
しかし彼女の中で、「a.k.a.」の意味は変質しています。「雪子 a.k.a. 先生」という仮面でも、「雪子 a.k.a. MCサマー」という逃避でもなく、矛盾も不安も抱えたままの「私自身」を、ようやく引き受けていくこと。

ニーチェ的な「永劫回帰」の恐怖だった日常のループは、いまや、毎回違うリリックを刻めるビートへと変わりました。
「解決」はしない。けれど、その不安なループをライドする覚悟を決めたラストの表情は、どんなハッピーエンドよりも力強く、現代を生きる私たちの背中を叩いてくれるものでした。
4.0
 雪子 a.k.a.の a.k.aとは「as known as」の略語であり、「~として知られている」という意味で、今作のヒロインの雪子の別称として現わされる。いわば自分の本名とは違う別名で、多くの人は本名とは違うもう一つの名前をインターネットの世界の中に有している。教育現場の機能不全は何も今に始まったことではないだろうが、ドラスティックに仕事環境そのものが強烈に変化を果たす業界の中でも、いま小学校の先生というのが、一番歪な建て付けの板挟みに遭っているのは間違いない。開巻早々は何だか雪子先生(山下リオ)の教育実習生のような初々しい表情に苦笑いを禁じ得ないが、彼女はいま29歳で女性として、人間としての岐路に立たされている。大学時代から何となく続いている恋人の堀田広大(渡辺大知)からはやんわりとプロポーズをされ、女性としての喜びを嚙み締めるかに見えた彼女は、覚束ない足取りで何度も逡巡しながら、自分探しをしようとする。「俺は東京生まれHIP HOP育ち 悪そうな奴は大体、友達」とかつてRAPしていた誰かがいたが、彼女にとってのRAPとは不良自慢でも悪さ自慢でも何でもない。尾崎豊の「盗んだバイクで走り出す」を地で行くようなヤンキー先生もいたが、彼女にとってのRAPは自分が自分でいる為の切実な表現に他ならない。

 昼は先生、夜はラッパーとして吉祥寺エリアで夜な夜なサイファーに繰り出し、即興でRAPする。そこに集まり円を作る人々はそれぞれが別々の境遇を抱えながら、ビートボックスに合わせて今この感情をRAPに込める。途中まで観て行くと身内の登場に今作の批評をするのは憚られる気分に駆られる。和田さんやナイスパニックのPONEY君や椿ちゃんの姿がある。立仙のゲーム配信者になる前のRAPも妙に生々しい。故郷の長崎に降り立ち、「東京アウトサイダー」ばりの空気で娘を向かい入れるARB石橋凌の本気の演技にも心から痺れた。あの変装は何なんと。あえて東京本選ではなく、長崎予選に主人公がエントリする辺りは己の実力がわかっている。数年ぶりの映画主演復帰作となる山下リオは教師としてもラッパーとしても素人から出発するしかない。それゆえ未知の領域に踏み込む山下リオの生の声が毎週末に通う坂下家(池田良)の坊ちゃんの指先に壁越しに浸透して行く。それらの画面の動的な処理が草場尚也の映像作家としての確かな才能を感じさせる。一方で雪子の女性としての自立の挿話も物語には組み込まれる。教員総選挙となるような狂った采配の先に待っている先輩教師(占部房子)や樋口日奈との細やかなコミュニケーション。先生だって悩んでいるのだが、生徒側の視点しか取り沙汰されない。ラストの不登校児とのセッションは3度目でOKとなったらしいが、人間同士のヒリヒリするような空気がスクリーンから伝わって来る。
ぬん
3.5
面白いけど絶賛するほどでは無いかな

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