今朝、週刊文春で「意外性に満ちた一本」と紹介。めくらの坊主が悪人を斬りまくる作品。

主演の近衛十四郎は戦前から戦後にかけて活躍した「日本映画史上最も殺陣の上手い役者」と評された。息子は松方弘樹。

今では放送禁止用語の「めくら」を連呼する悪人を斬りまくる主人公は、人情味溢れる茶目っ気のあるキャラ。

切っ先が流れるような剣さばきは、武骨さと悲しみ、時にユーモアも感じさせる。

大正の時代設定の日本家屋や関西の街並み、九州のボタ山など、モノクロの映像が古さを強調するよう。

さらに主人公のライバルの自称「死神」の高そうなスーツを着た長身の謎の人物が異彩を放つ。普通、自分のこと「死神」て言わないよなあ。😅

なんなんだこの作品は。製作当時大ヒットしていた『座頭市』からパクった亜流娯楽作品のはずなのに、物語や役者の演技、演出などすべてのテンションが狂いすぎているため映画全体のバランスが崩壊し確かに構成は原典と同じ盲目の剣士が悪人を倒す物語なのに誰も救われない地獄のような結末へ。

飄々として人懐っこそうだし悪人は許さないといういかにも時代劇の主人公キャラだけど、関わっていく人みんな不幸になりしかも当人は全く気付いていないという近衛十四郎のキャラがあまりにもクレイジーすぎて見ているこっちが怖くなってくる。そんな彼の暴走に巻き込まれどんどん不幸になり主人公に絶望を見いだすヒロイン北条きく子やその弟、ヒロインに執着し彼女と親しくする近衛をライバル視する東千代之介の最後…。この異様な世界からTVに押されチャンバラ映画が段々売れなくなり何を作れば良いのかわからず試行錯誤する東映京都スタッフの苦悶の叫び声が感じられる(実際この映画の数年後には東映京都で製作される映画の大半はやくざ映画になり、スタッフもリストラされる)。

狂乱する近衛に対して醒めた目付きで謎の言葉を呟くヒロインの弟で締められるラストに背筋が凍る。

　1964年。救いがなァい！！　盲目ながら剣豪のヤクザ坊主、彼を慕う娘、娘に執着する気持ち悪いスーツの人、大阪ー九州に跨がる欲と恋情の因果因縁、地獄巡りのニューシネマ時代劇。
　主人公は近衛十四郎という人で、たぶん日本一殺陣の上手い役者である。この人が関西弁でコミカルに、座頭市をまるっといただいたようなキャラをやるってんだから明るく痛快な時代劇、だと思うでしょう。ところがそうじゃねぇんだな！
　冒頭の武道大会で無双してライバルと遭遇するあたりまでは軽快である。が、坊主の重苦しい背景、ヤクザな生き方が語られて突如湿り気を帯びてくる。困ったなぁそういうウェットな展開は、と思っていると、お話はどんどんジメジメしてドロドロして、復讐が恨みを呼び、偶然が悲劇を誘い、もはや蟻地獄の様、呈しおり候となっていく。
　主人公が九州にて知人と己の目の仇を打つあたりの爽快感、痛快さのなさたるやどうだ。眼球を斬り、悶え苦しむ相手を深い水だまりに追い込んで溺死させるってんだから半ばホラーである。こわい。そっから後半、20分以降の下り坂、もはやどうにもならぬ空気は筆舌に尽くしがたい。
　カタギの道にはどうにも戻れず極道をやるしかない近衛、昔惚れていた女に瓜二つだからとヒロインにつきまとう気持ち悪い東千代之介(役名は「死神」。存在感抜群なのだがなんかヌルッとしている)の両巨頭を配して、お話は絶望の匂いをむんむんに出してくる。
　だってクライマックスでね、敵のヤクザたちが盲目の剣豪坊主に向かって、ボッコボッコ投石するんですよ。ズルじゃないですかそれ。ひどいですよ。陰惨なやり方ですよ。まぁ逆転はするんですけど主人公は血みどろで絶叫、「う、うわぁ……」とテンションが下がる。そして夢も希望もないラストへ。これはすごい。最後の「台詞」もすごい。何で近衛先生の剣戟映画でこんな気持ちにならなあかんのや。
　一方でこの粘つく脚本に監督や演出が応えきっているかと問われると首を傾げるところがある。終盤の異様なテンションや時折のショットは印象的ながら、なんか変わったことをしようとしてうまくいってない感触がある。引き合いに出しちゃ悪いが三隅とか加藤泰が撮ってたら10倍くらいヤバい代物になっていたかもしれない。どんより落ち込みたい方にオススメの一本です。そんな勧め方があるか。