売れっ子タレントの石原裕次郎。
マネージャー兼恋人の浅丘ルリ子。
交際730日を迎えたが、未だプラトニックな関係のまま。
番組で知り合った者の依頼を受け、東京から九州までジープを運ぶ事になるロードムービー。
純粋愛とは何か。
二人が答えを見つけられたのならそれで良いが、分かったような分からないような…。

これは日本の風土でロード・ムービーを成立させた稀有な傑作であると思います。
以下、ロード・ムービーという点からレビューを残します。長いです。あくまで個人の感想というやつですが、無駄話は一切ありません。

１.日本の風土とロード・ムービー

Wikipediaによると、ロード・ムービーは「逃亡型」と「追求型」に分類できるそうですが、いずれにせよ、少し走ったらすぐ次の町に着いたり、海に出たりする日本では、ロード・ムービーはなかなか作りづらいのではないでしょうか。
さらに私はロード・ムービーというのはやはりアメリカの乾いた空気とランドスケープが不可欠というヘンケンを持っており、日本においては、ロード・ムービーというのはなかなか成立しづらいと思っていました。

２.日本映画におけるロード・ムービー

もちろん日本映画にも過去にロード・ムービーと言いうる映画はありました。例えば「オン・ザ・ロード」や「幸福の黄色いハンカチ」です。
ただ、「オン・ザ・ロード」は、主人公の目的行動のリクツ固めが不十分なままで走り出してしまったので、主人公が女の子を追いかけまわしてるだけにしか見えず、渡辺裕之さんのムダ使い。
「幸福の黄色いハンカチ」は、高倉健演ずる主人公のキレやすく暴力的な性格に難がある。また、ラストのラブシーンにおける武田鉄矢があまりにも気持ち悪く、巨大なナメクジのようでおぞましい。まるでヌメヌメとした巨大ナメクジが桃井かおりに襲いかかっているようにしか見えない凶々しさで、全てをぶっ壊してしまいました。

いや、むしろ日本映画におけるロード・ムービーは、映画よりも70年代初頭のテレビに花開いていたと思うんです。
子供も観るシリーズでは「走れ！ケー100」(73年)や「アイアンキング」(72年)という秀作がありました。また、オトナ向けでは本場アメリカに乗り込んだ「股旅USA」(72年)という異色作もありました。しかし何といっても日本におけるロード・ムービーの最高峰は、市川崑監修・監督のテレビシリーズ「木枯し紋次郎」であると思っております。
これらのシリーズは「さすらい」「旅」がひとつのキーワードだった70年代初頭の空気をたっぷり吸い込んだ秀作群だったと思うのであります。

３.憎いあンちくしょう

他にもロード・ムービーと言いうる映画はあったとは思いますが寡聞にして知りません。
ただ、ロード・ムービーという言葉があったのかどうかもわからない時代にこれだけロード・ムービーとしての骨格を持ち、地点Aから地点Bまでジープで移動する魅力とカタルシスを感じさせてくれる映画はこの映画くらいのものでしょう。
実はこの映画は1時間45分の上映時間のうち、主人公がジープでスタートするまで43分もあります。普通なら早くしろと退屈するところですが、この43分の間に主人公が行動に移るリクツ固めと世界の構築がしっかりと作り上げられてゆく。だからスタートした後の主人公の移動とドラマの展開がハッキリするんですね。作者が意識したことか否かわかりませんが。
しかも、主人公の目的行動が自分のことじゃない。他人の愛を確かめるために行く。だからベタベタしていない。客観的なんです。しかもそれが主人公の人生にもフィードバックされるところなどうまいものです。目的行動に移るまでがガッチリしているので、ロード・ムービーは日本の風土な合わないなんてことも気になりません。
もしかしたらこの映画、「続・激突!/カージャック」「バニシング・ポイント」の元ネタなんじゃないかな、というのは半分は冗談ですが、ここまで完璧なロード・ムービーは本場アメリカ映画でも珍しいのではないかと思った次第であります。

追伸1
石原裕次郎が黒っぽいスーツをラフに着こなして、浅丘ルリ子とツイストみたいなダンスを踊るシーンは「パルプ・フィクション」のあのダンスのシーンの元ネタなんじゃないかな。これはタランティーノのことだからありうるかもな。

追伸2
蔵原惟繕監督は初期の「必殺シリーズ」でお馴染みだった名前で、ずいぶん楽しませてもらいました。それ以前にこんな傑作も作ってたんですね。

追伸3
ラジオのパーソナリティをやってる主人公が、番組の最後にスポンサーのソーダラップの宣伝をするんです。ソーダラップ！！懐かしい！思わず、味が蘇ってきました。

追伸4
若い頃の桑田佳祐が出てたのかと思ったら、若い頃の長門裕之でした。
たしかに。いくらなんでも桑田佳祐じゃ年齢が合わんな。

憎いあんちくしょうの顔めがけ〜♫
…とは関係ない（笑）

昭和の大スター 浅丘ルリ子さんの可憐な表情がいっぱい詰まった映画で、これ以上のものはない。

本当に愛くるしいし、美しい。

男のワイシャツを寝巻きがわりに羽織る姿の艶やかさは、あぁ、きっと、この人が最初なんだぁ…なんて思える。

『純粋愛』（自分世代の『プラトニックLOVE』のこと？）がテーマ。

大スター北大作（石原裕次郎）とそのマネージャーである恋人の女性（浅丘ルリ子）は付き合い始めた頃の愛のときめきをいつまでも色褪せさせないため、あえて肉体関係を絶った恋愛関係を貫こうと決意する。

しかし、その決意とは裏腹に２人の間に深刻な倦怠期が訪れた頃、北大作は、ある３行広告を目にする。それは、３年もの間、遠距離恋愛を続ける貧しい女性からのものだった…。

『ヒューマニズム』という言葉と『純粋愛』という言葉が飛び交う映画で、時代の雰囲気を感じさせるもの。

寅さんのなかでは、浅丘ルリ子というとリリーで、「寅さんにはリリーが一番合っている」なんていう世評を多く読むが、自分はいつもこれにかなり違和感をもつ。

なぜなら、自分にとって、銀幕を飾る最も絵になる２人といえば、

〝裕次郎〟と〝浅丘ルリ子〟

以外には考えられないからだ。

本作の２人は『銀座の恋の物語』以上にスクリーンのなかで輝きを放っている。