絶対無欠な死へのレール

ポー『アッシャー家の崩壊』を今度はロジャコーマンが映画化！AIPのポー×コーマンシリーズの記念すべき第一作でコーマン最高傑作との呼び声も高く、アメリカ国立フィルム登録簿に保存されたゴシックホラー界のレジェンド。28年版のような幻想的映像美はないけど、「家」を主役とした傑作！

原作も28年のエプスタイン版も主人公を観測者の立場に据えて観客の視点を担わせることで、アッシャー家という特異な空間の異常性を更に際立たていたのに対し、本作の主人公は超アクティブにアッシャー家を引っ掻き回す！なんと今回の主人公はアッシャー妹の婚約者！妹を家から出そうとする主人公をアッシャー当主であるヴィンセントプライス（金髪フォルム）が必死こいて妨害する！というか金髪フォルムのプライス初めて見たかも知らん！何か巨人師匠みたい😂

ハマーホラーのようなエレガントな古城の内装の中にも端々の闇に物悲しさを滲ませ、赤に死を纏わせるような色彩配置は後の傑作『赤死病の仮面』にも通じるものがある。一方、対抗馬として主人公は青を纏うのだけど、あくまでも「家」が真の主人公であるため、その物質的主観（原作における無機物の知覚もこれにより反映）の観点から寒色・暖色の配置が通常とテレコになっているだけでなく、それはアッシャー兄妹（主に兄）の主観・願望としての意味合いへと表現主義的手法により帰ってくる。

28年エプスタイン版では炎の強さで生命力を表現したのに対し、本作は主人公（青い人）のアッシャー妹への愛情の写し鏡のようにも見え、家に到着時の暖炉の慎ましやかな（弱々しい？）炎と向かい合い、なおかつ暖炉から攻撃を喰らう姿は、あたかも自分の心と向き合ったために攻撃を受けているようにも見える。更には蝋燭がたくさん灯ったシャンデリアにも殺されそうになる。そしてそれは「家」という「死」からの拒絶反応でもあり、家と侵入者の立場からそれぞれの両義性を徹底した演出を通して、原作通り外界から完全に閉ざされたアッシャー家の強固な呪いを印象付けるものにもなっている。

絵画的な三角形の構図の配置を変えて反復し、更にそれを崩すような2人の目線の交差。この安定と不安定の両立においても、まるで磁石のように生と死が反発しあっていることが感じ取れるし、少なくともエプスタイン版よりも原作に忠実だとは思う。

私はコーマンの最高傑作は『赤死病の仮面』だと思ってるけど、本作も流石の完成度だった！コーマンのさり気ない心理演出の妙義を堪能できる傑作だと思うし、本作を経て『赤死病の仮面』が作られたと思うと主題の連環としても興味深いなって思った。

• #ホラー映画と怖い映画

B級味が薄いマトモなロジャー・コーマン作品です。何をロジャー・コーマン作品に求めるかで評価が分かれる作品だと思います。B級な味わいが欲しいか、スリラーとして単純に楽しみたいか。ボクは単純にスリラー作品として評価しました。

すごくよくできた作品だと思います。パターンとして以下の三つが考えられるのですが、答えを出さないオープンエンディング。
・兄のロデリック・アッシャーが狂っている
・妹のマデリン・アッシャーが狂っている
・家全体が呪われている
ただし、ネタバレ注意作品なので、あまり調べずに前提知識がない状態で観ることをお勧めします。

👍B級味が薄い理由（そしてそれがしばらく続く理由）

💰いつもの倍の予算💰
B級映画の帝王ロジャー・コーマンはかなり頭のいい監督です。低予算ゆえに、その賢さが「割り切り」に活用されるとB級味が増してきます。この作品はAIPで初めてのカラー作品のため、予算がいつもの2倍ありました。低予算で作った白黒映画を二本立て上映するのがいつものAIPのパターンだったらしいのですが、そのスタイルが廃れてきたために（AIPにしては）お金をかけたカラー作品で勝負に出たのがこの作品。

それでもお金がかかりそうな後半はあらかじめ下調べをしたロケーションで行ったそうで、意外とお金がかかってないそうです。金勘定ができるって大事ですよね。お金が儲からないと長続きしないですから。

🧟‍♂️エドガー・アラン・ポー原作🧟‍♂️
二つ目の理由はしっかりとしたストーリーです。原作が一流だから映画が一流になるわけではありません。しかし、ロジャー・コーマン監督はもともと頭のいい監督なので、ちゃんとした作品に仕上げる可能性はかなり高いのです。

ロジャー・コーマン監督は、この作品をきっかけにエドガー・アラン・ポー原作の映画作品を合計八作品作ります。やはり今作で何か手応えのようなものを感じたんでしょうね。

🤩キャラが立ってる俳優ヴィンセント・プライス🤩
これまでの「着ぐるみ怪獣」モノではどうしても安っぽさが際立ってしまいます。ヴィンセント・プライスは『ハエ男の恐怖』でホラー役者として確立しつつありましたが、ロジャー・コーマンと組んだエドガー・アラン・ポー作品でクリストファー・リーと並ぶ地位を獲得しました。

本作品でも兄のロデリック・アッシャーを演じるヴィンセント・プライスは全体の雰囲気を作る鍵を握っています。オープンエンディングで結局は何が原因だったのか分からない。それはヴィンセント・プライスがあってこそだと思います。

🪕レス・バクスターの音楽🪕
映画にとって音楽は非常に大切な要素です。この作品で音楽を担当しているのがレス・バクスター。レス・バクスターはマーティン・デニーと並ぶエグゾティカ音楽の巨匠です。この映画では特に音楽は重要な要素ですよね。

レス・バクスターもヴィンセント・プライスと同様にロジャー・コーマン監督のエドガー・アラン・ポー作品に起用され続けます。

スリラーとしてよくできていて、B級作品とは言えません。じゃあ、この映画は大傑作なのか？うーん、流石にそこまでではありません。ロジャー・コーマンの転換期的な作品という歴史的意味はあると思います。他の雑多なロジャー・コーマン作品より、この作品を観た方がいいとは思います。

• #ロジャー・コーマン

エドガー・アラン・ポーの短編×ロジャー・コーマン。
悪霊に取り憑かれたアッシャー家のストーリー。
家が生きているかのような描写がスリルあり。クライマックスがよかった。

悪霊に呪われた代々のアッシャー家先祖が、高利貸し、詐欺、麻薬中毒、恐喝など、犯罪者ばかりなのには笑った。たしかに呪われてはいるのか？

2023-110