パリに亡命したキューバの詩人であり作家、文芸評論家であるセヴェロ・サルデゥイの作品『Barroco(邦題:歪んだ真珠 バロックのコスモロジー)』(1974年)から映画のタイトルを取ったらしい。監督はルーベンスのバロック絵画『the Exchange of Princesses』(1621-1625年)からもインスピレーションを得ていると述べている。男女の入れ替わった『めまい』だが、加害と被害が反転して、亡者を再臨させようとアジャーニが恋人を殺した男(演じるのはどちらもドパルデュー)をけしかけて2人で1つの作品(人格)を完成させようと目論む。政治闘争に巻き込まれ、二重化したイメージは真偽を曖昧にして終わる。そこに個人の感情は希薄だ。娼婦ピジェと職業不明なブラッスールの夫婦は嘘みたいな友人の逃走劇を経ても何事もなかったように冴えない日常に回帰する。 スチーム・サウナへ向かうエレベーターが最高。サウナ拷問ってマン監督『Tメン』にもあった。つまりとことんノワールな展開ではある。内面のないやられっぱなしの殺し屋をステヴナンが好演。遺言フィルムを生前にチェックする軽薄なブリアリもいい。マリー・フランセが披露する『On se voit se voir』はプレイリストに追加しました。