Kamiyo

尼僧物語のKamiyoのレビュー・感想・評価

尼僧物語(1959年製作の映画)
4.0
1959年”尼僧物語” 
監督フレッド・ジンネマン
脚本 ロバート・アンダーソン

この作品は何と言っても、主演のオードリー・ヘプバーンの清楚で可憐な美しさが魅力です。
尼僧になる決意をして修道院に入ったガブリエル(オードリー・ヘプバーン)の、信仰心と自尊心の間で揺れる姿をとらえガブリエルの魅力的な人間性と奉仕の精神が修道院の期待する尼僧像とは一致せず、そのギャップに苦しむガブリエルの姿が描かれます。
信仰と一人の女性の生き方を真面目に描いた作品です。

<ストーリー>
ベルギーの有名な医者パン・デル・マル博士の娘ガブリエルは尼僧になる決意をし、家族や親しい友人と別れ修道女となることを決意する。
父親に付き添われ修道院の門をくぐったガブリエルを待ち受けていたのは厳しい戒律に縛られた修練の日々だった。
研修期間を終えてシスター・ルークの名前を授けられ一人前となったガブリエルは、看護師免許を持つ尼僧になった彼女は修道院へ入る以前からコンゴへの医療活動の派遣を熱望していた。
見習い尼から正式の尼僧になり、ベルギー国内の精神病院に派遣された後、アフリカのコンゴに行き熱帯病の医療活動に従事することに紆余曲折の末ようやく希望が叶って
ついに念願のコンゴへの派遣が決まる。
コンゴで彼女に与えられた仕事は、無神論者で天才的な外科医であるフォーチュニティ(ピーター・フィンチ)の手術助手として献身的な働きをし、周囲の絶大な信頼を得るようになる。
二人はお互いの仕事の手腕を認めあい魅かれあうようになる。フォルテュナティはガブリエルに「君はいくら努力しても尼僧になり切れる人ではない。君は世俗的だ。」と言う。
昼夜を問わない勤労のため彼女は過労が高じ結核に侵されかけるが、フォーチュニティによる適切な治療により無事に疾病を克服する。
ガブリエルは戒律を教えられた当初から「疑問を持たずに服従するべし」という教えに従うことができず苦しんでいた。
しかしやがてガブリエルは、コンゴに残りたいという意に反しベルギーに召喚され、次はオランダとの国境に近い病院に派遣される。
戦争が始まり中立国のベルギーに対してドイツ軍は砲撃を加えてきた。しかし尼僧は全てに対して慈悲の心を持たなければならず、ガブルエルは苦しんだ。
そんな最中、ガブリエルは父がドイツ軍に銃殺され、弟のピエールが地下活動に従事していることを知らされると、
敵を憎むべからずとのキリストの教えと自分の気持ちとの間の矛盾に苦悩するが、ついに敵への憎しみに満ちた胸に十字架をかけ続ける事は出来ないと、ガブリエルは地下組織の看護師として活動に加わることを決断し聖職を離脱する。
研究所やコンゴの療養所へ看護師として赴任していく後半には彼女の心の内部の葛藤がその演技に頻繁に見られるようになる。
修道院で学んだ厳しい戒律と人間の感情が渦巻く医療の現場とのあまりの格差。
自分を偽ってまで神に仕えることを良しとしないという自分に対して厳しい性格からやがて尼僧を辞めざるを得なくなるまでの心の変遷を
カメラは静かに撮す。修道院を去っていくまでの一連の動きをじっくり捉え、扉を開け彼女の姿が見えなくなるまでを追ったラストシーンは特に印象的。その決然とした歩みに彼女の心にはすでに迷いはないことがわかる。

このようにストーリーを書いてもこの作品のことは何も伝わらないような気がしてきました。
映画を通してガブリエルの信仰心と自尊心の間で揺れる心の旅が描かれているのですが、
それはオードリー・ヘプバーンの表情ひとつ、仕草ひとつで表されているような気がします。映像で表現されていることがとても多く、どんな映画なのか言葉で説明するのはとても難しいです。

ガブリエルが、なぜ、アフリカの黒人に対して医療奉仕したかった理由はこの映画の中では語られないです。
ヨーロッパの白人社会の人には説明する必要もないことなのかもしれませんが、日本人にはわからないので、ここは少し消化不良になります。
それと、この映画を見てると、白人がアフリカで行っていた医療奉仕活動が、人種差別の上に成り立ち、明らかに黒人を見下してる様子もわかります。
白人至上主義が子供のころから染みついてるから、本人たちは、そのことに気づいてないんですけどね。
白人と黒人の病棟が別なのは「当たり前」で、だれも疑問を差し挟まないとか。

オードリーはどうしてもイメージが先行してしまってるように思います。僕自身もそうでした。以前は容姿ばかりに目を奪われていましたし・・・しかし、最近彼女の作品を一気に見直しているのですが、彼女は天賦の才能と努力でつかんだ才能を伴う類まれな女優であることを思い知らされました。この作品のシスター・ルークはおそらく彼女が一番自信を持って演じた役ではないかと思います。単に演技という枠を超えて彼女の人間性が出ている名演技でした。

ヘプバーンの慈善活動に対する目覚めも、晩年の彼女のユニセフの活動は有名ですが、それ以前からも一協力者としてユニセフの活動に協力していたようです。きっとこの作品でコンゴへ行ったことがきっかけかもしれませんね。

ぜひ一度ご覧ください。とても良い作品です。
Kamiyo

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