冒頭から二郎勝利のお膳立てが整ってるなと思いきや意外と裏をかかれる側の荻野も中々やりよる…とか思ってたら実は主題は別のところにあって…っていうその誘導の巧みさは惚れ惚れするレベル。

80分でこれだけ充実したものを見せられたら、こっちもまだまだ期待してしまう。

藤村志保は60年代の所謂"お人形さん系美女"とかとは違う文脈の魅力があってそこも作品の助力に間違いなくなってる。

フォロワーさんのレビューを見て興味が湧き鑑賞したが、こんなに面白い邦画がまだ眠っていたとは。

金のためスパイになった田宮二郎、ところが彼がスパイした友人宅で殺人事件が起きてしまい証拠品から田宮が殺人犯になってしまう…。二転三転して先の読めないストーリー展開に加え、大映特有のアダルトなムード、森田富士郎のシャープな映像が格調を与え重厚な一級のミステリー映画になっている。
特に真犯人の存在に気づいた田宮、警察、検事がそれぞれの立場から調査しラストにたどり着く緊迫感に満ちた展開は見ごたえ十分。

いつもはキザな田宮二郎がカッコいいけどちょっと間の抜けた、それがゆえに利用されてしまう三枚目的なキャラを好演し敵や警察に翻弄される様にハラハラさせられる。あと江波杏子や藤村志保、滝田裕介といった裏がありそうなキャラを演じる役者達の好演が作品に緊張感をもたらしている。

それから早川雄三、夏木章、島田竜三といった大映の脇役俳優たちの熱演もみどころ。

田宮二郎の産業スパイとしての適性の無さよ。
機密情報を持つ邸宅に侵入するまでは良いが、はしゃいでカメラに写しているところを後ろから本人に見られ、特に機転も効かず狼狽。
(しかも前々から怪しいと思ってたとか言われる)
挙句の果てにそのでかいカメラを殺人現場に忘れ、犯人扱いされてしまうお粗末さ。

そんな田宮二郎の体たらくにも関わらず、映画の格は下がらない。
意外な人物が死んでいく脚本や、森田富士郎の重厚な撮影、それに女優の素晴らしさ。
江波杏子の愛人ぶりは言うに及ばず、藤村志保の悪女が見もの。
いつもは清純な役が多いだけに今回の役はインパクトが有り、それでいて美しい。
陰影の濃い映像も相まって、今まで見た中でベストアクトかも。