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グリーンフィッシュ
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グリーンフィッシュ

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配信状況無料期間と料金
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『グリーンフィッシュ』に投稿された感想・評価

〝彼が掴めなかった場所に、彼女だけが立つ〟

除隊した男が、故郷へ帰る列車に乗っている。

同じ車両にいた女の、バラ色のスカーフが飛んできて、顔を覆う。

返しに行くと、彼女はチンピラたちに絡まれていた。

助けに入って、袋叩き。

さらには、降りた男たちを追いかけ、除隊記念の盾で殴りつけ、そのまま走り出す列車に乗り込む。と思いきや、乗り遅れる。

誰にも頼まれていないが、自ら首を突っ込んだ。

車内に置き去りの鞄。

手元に一つだけ残ったスカーフ。

主人公のマクトン。この名前は、末っ子という意味だ。

帰り着いた一山に、彼が知っている風景は無かった。新都市の開発で、土地ごと作り替えられている。

父の死後、ばらばらのままの兄弟。

長兄は重い脳性麻痺で、言葉が出ない。次兄は警察官だが酒に沈んでいる。三兄はトラックで行商。妹は家族に内緒でタバンのレジをしながら、こそこそと兄に小遣いを渡していた。

そんな家族の中で、彼にできることは何も無かった。

女の子から電話あったわよ。

母のメモ。置いてきた鞄の中の連絡先を見て、あの女がかけてきたのだった。

永登浦のナイトクラブへ、スカーフを返しに行く。

歌手のミエ。この店を仕切る組織のボス、ペ・テゴンの女だった。

スカーフを返そうとすると、彼女が言う。

プレゼントするわ。

除隊してきて、故郷は消えていて、家族は散っていて、できることが何も無い男に、他人が初めて何かを手渡した。

酔って絡むテゴンの部下達から彼女を庇おうとして、子分のパンスに殴られる。

二度目だ。誰も彼に頼んでいない。彼は自発的に動いてる。

また繰り返しだと思った矢先、目の前にテゴンの車が停まる。何故か乗れと言われる。

家はどこだ。除隊したばかりか。これからどうする。

就職しないと、と答える。

当てはあるのか。得意なことは。技術は。どんな仕事がしたい。

将来の夢は?

答えられない。

情け無いぞ。特技もやりたいこともないとはな。

若者なら夢を持て。

そう言って、駐車場の仕事を世話してくれた。

そこでまたパンスと揉め、散々殴られた末に、角材で後頭部を叩き返す。

その様子が上に伝わり、仕事が回ってきた。

テゴンには目的がある。取り壊し予定の複合商店街の再開発権を取って、そこに自分のビルを建てる。邪魔をしているのがオ社長という男だ。

マクトンは、トイレのドアに自分の指を挟んで折る。

命令されていない。折れと言われたわけでもない。自分で挟んだ。

そのままオ社長に因縁をつけ、殴られた瞬間に大袈裟に倒れる。殴られて指が折れたことにした。暴行の容疑がついて、示談を条件に、オ社長は手を引く。

本物の痛みと、他人の都合でできた意味。

テゴンは彼を褒め、正式に組織へ入れた。

マクトンに与えられた役目の一つが、ミエの見張り。逃げないように、そばに付いている。

彼女はときどき、ひとりで列車に乗る。彼はいつも一緒に行った。

その車中で、マクトンが家族の話をして、子どもの頃の写真を見せる。

ミエが、それを欲しいと言う。

彼は渡した。

そして二人はキスをする。

出所してきたキム・ヤンギルが、かつての弟分だったテゴンの縄張りを取り返しに来た。

ヤンギルの部下と揉めたマクトンは、テゴンに殴られる。

俺たちはヤクザじゃない。

拳ではなく人脈で片を付けるつもりだったこの男は、検事にミエを差し出す。

その夜、愛想を尽かした彼女が、家まで送ったマクトンを引き寄せた。

駐車場で、パンスたちが裏切る。付いた先はキム・ヤンギルだった。

テゴンの車が襲われる。和解のために設けた席では、子分たちの前でキム・ヤンギルに殴られてしまう。

テゴンは、廃墟になった複合商店街へマクトンを呼び出した。

ここに自分のビルを建てる。そう話しながら、この男は自分の昔の話をする。

そして、あの日と同じことを訊いた。

お前の夢は何だ。

兄弟でもう一度集まって、小さな食堂をやりたい。昔みたいに、家族みんなで暮らしたい。

車の中では出てこなかった言葉が、出てくる。

彼の夢を訊いたのは、この男だけだ。

そしてその口で、キム・ヤンギルを消せと仄めかす。

クラブへ向かったマクトンは、入る前に、スカーフを燃やす。

女がくれたものを燃やして、夢をくれた男の側へ入っていく。

そしてトイレで、キム・ヤンギルを刺した。

血が溢れる。床を拭こうとして、拭ききれずに逃げ出す。

公衆電話に駆け込んで、家にかけた。

出たのは長兄だ。

母はどこにいるのか訊く。自分は元気だと言う。

電話を切らないで、と繰り返す。

そして、憶えているかと訊いた。

赤い鉄橋。子どもの頃、あの下へよく魚を捕りに行った。緑色をした魚を捕まえようとして、履き物を片方失くした。長兄も兄たちも、一日中遊べずに、それを探して回った。

妹が蜂に刺されて尻が三つになったと、二番目の兄がからかった。

あの時のこと、憶えてる?

憶えてるか?

彼の手は、伸ばすたびに何かを壊している。

女を助けようとして、列車に乗り遅れた。その縁で組織に入った。指を折って認められて、人を殺す場所まで上がっている。

緑の魚も同じ。掴めなくて、履き物を片方失くして、家族の一日を潰した。

やったことを、見ていてほしかった。それだけのことが、毎回、裏目に出る。

母は、でなかった。

彼が一番声を聞きたかった相手は、不在。

最初の帰郷の場面で、テレビを見ている母に声が届かないシーンがある。

おそらく、父の死から、変わってしまったのは、母だったのだろう。

彼の手は、一番届けたい人に、届かない。

見て欲しい人に、見てもらえない。

そして、廃墟でテゴンが待っていた。

あの時、夢を話した場所に、もう一度呼ばれていく。

不安がるマクトンを慰めるふりをして、煙草をくわえる。

火をつけてやろうと近づいた彼の腹に、ナイフが入った。

若者なら夢を持て。そう言った男が、この距離にいる。

車の中には、ミエが座っていた。

死んだと思われたマクトンが工事現場から出てきて、ボンネットに倒れ込む。

窓ガラスを白く曇らせながら、中の二人を見ている。

テゴンは二人の関係に気づいていた。知らないふりをして使い、殺し、その死に際まで彼女に見せている。

お前は俺から逃げられない。檻から出られない。

そう教えるために、彼女をここへ乗せてきた。

認めてほしかった男は、そのまま車を出す。

最後まで彼を見ていたのは、彼が手放そうとした人だった。

そして、歳月が流れる。

一山の郊外に、〝大きな木の家〟という食堂がある。

マクトンの家族が、みんなで切り盛りしていた。

昔みたいに、みんなで暮らす。彼が言っていた通りの光景。

彼が死んだ後で。

そこに、テゴンと、身重のミエが立ち寄った。

庭で鶏が逃げ回っている。家族とテゴンが一緒になって、笑いながら追いかける。

殺した男の家族と、笑ってるんだ。

テゴンは次兄の顔を見て、どこかで見た気がすると言う。前は何をしていたのかと訊いた。

思い出さない。この家が誰の家かも、分からないまま帰っていく。

若者なら夢を持て、と言った男が、その夢の中で飯を食っている。でも、何も見えていない。

食事のあと、ミエが庭の大きな柳を見る。

どこかで見た木だ。

持っていた写真を出す。

同じ木だった。

彼女だけには、見えた。そして、車の中で泣き崩れる。

イ・チャンドンの映画では、見えている人間が限られている。『オアシス』の二人の世界も、『シークレット・サンシャイン』の女の内側も、見ていたのはそばにいた一人と、観客だけだった。

この映画も同じだ。

ただ最後に、〝見えている人間と見えていない人間〟を、同じ場所に、彼の見た夢の中に立たせる。

前者は、庭の木と手の中の写真が重なって、泣き崩れる。

後者は、自分が持たせたものを目の前にして、何も気づかず、去っていく。

あの日、その男に夢を持てと言われて、彼は初めて夢を持った。

そこには、子供の頃の、何も知らない無邪気な写真が飾られていた。

【追記】

大満足。ルーツが沢山入ってる。作家性が一貫してるね、この人。かっこいい。

イ・チャンドンのデビュー作。これで四十三歳。小説家からの転身。

一番の名場面は、公衆電話なのよ。
3.3
【🕶省略レビュー🐠】

小説家だったイ・チャンドンの映画監督デビュー作。

ヤクザ映画と聞いて想起させられるものに比べると、そのジャンルの中ではかなり静かで地味な方かもしれない。しかし、いくら静かで地味であっても鑑賞後にジワジワと実感が湧き上がるこの作品の奥深さは比類なく、喚き散らすタイプの最高なヤクザ映画と比べても全く見劣りしない。それは確実にシーン毎の叙情性が高く、ショットのインパクト(画力)が大きいからであって、そこにデビュー作ながらイ・チャンドン監督の作家性と彼ならではの独特なテンポが感じ取れる。

しょんべんをしているシーンがやけに多いのが気になってしまうけれど、もうそれはそれで面白いからいいや!笑

ラストのズームアウトしていくロングショットには画面に吸い込まれるような興奮を覚えたし、やはり兄貴と新入りの絆を描いたヤクザ映画は熱くて最高。

ひたすら不憫な役回りなのに、持ち前の可笑しさと可愛げで能天気に立ち振る舞う、デビュー直後のソン・ガンホがこれまた素晴らしい。


【p.s.】
忙しくてレビューをしっかり書く機会が無いので短めに今年観た作品のレビューを投稿しています。
暇があれば正式なレビューと入れ替えますが、きっとそんな瞬間は訪れないでしょう。
だって、私ですからね。
イ・チャンドンのデビュー作。

韓国映画を観るキッカケとなった「シュリ」のハン・ソッキュ主演。「シュリ」よりも前か〜若い!

軍役を退役した若い男が故郷に帰り、ふとしたキッカケで、ヤクザまがいの男の情婦と出会い、彼の闇の仕事を手伝うことに、、。

アニキの女との三角関係もよくあるヤクザ映画のパターンながら、派手な立ち回りは抑え、社会の歪みや人の心の闇や抗えない宿命など、人間心理の深みに切り込んでいく感じは、デビュー作にしてすでに見受けられます。

「ペパーミントキャンデー」以降の強烈さからすると、やや芯が弱い感じはしますが、なんとも複雑な余韻が残るところは、らしいです。見応えあります。

チンピラの中に、見たことある顔だなぁと思ったら、、若きソン・ガンホでした^_^

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