河豚川ポンズ

ニュー・シネマ・パラダイスの河豚川ポンズのネタバレレビュー・内容・結末

4.2

このレビューはネタバレを含みます

ノスタルジーがとことん沁みる映画。
午前十時の映画祭のおかげで映画館で観られるなんて思いもしなかったけど、観返す度に深みというか、心に刺さるようになってきた気がする。

ローマで暮らすサルヴァトーレ(ジャック・ぺラン)にある晩、故郷のシチリア島の母親から1本の電話が入る。
町を出たきり1度も実家に帰らず、電話の1本も寄越したことの無かったサルヴァトーレだったが、電話の要件を聞いた彼は物思いにふける。
その内容は町で映写技師をしていたアルフレード(フィリップ・ノワレ)という老人が亡くなったという報せだった。
サルヴァトーレが「トト」(サルヴァトーレ・カシオ)と呼ばれていた少年時代、母のマリア(アントネラ・アッティーリ)と妹と暮らしていた彼は、町唯一の娯楽であった映画にすっかり魅了されていた。
トトは映写室に入り浸り、アルフレードに叱られながらも映写機の操作方法を見よう見まねで出来るほどになってしまう。
しかしある時、フィルムからの発火が原因で映画館は全焼してしまう。
アルフレードも一命をとりとめたもののやけどによって失明してしまう。
やがて映画館は再建され、唯一の映写技師であったアルフレードに代わり、トトは少年ながら映写技師としての仕事をするようになる。


イタリアの名監督ジュゼッペ・トルナトーレが手がけた言わずと知れた名作。
町唯一の娯楽であった映画が世界の中心を占めていた少年トトが大人になり、映写技師のアルフレードとの関わりを経て過ごした少年時代の日々を回想するというストーリー。
これだけ聞くとまあ普通なヒューマンドラマで、人によっては退屈そうに聞こえるかもしれないけど、字の読み書きもまともにできないアルフレードがトトに人生で成功をつかみ取らせるために大切なことを教えていくところがこの映画のミソ。
それこそ映写室の窓越しに観た映画の中でのワンフレーズだったかもしれないけど、アルフレードは父親が戦死したトトに息子のような愛情を抱いていたのは確かだろう。
やがてトトが青年になったとき、アルフレードは自分の寂しさを押し殺して彼にこの町を離れるように諭し、トトは都会へと旅立っていく。
そうして30年、トトがすっかり寂れてしまった町を見て思うものは、まさにアルフレードが囚われてはいけないと話していたノスタルジーそのものだ。
そこにイタリアの美しい景色とエンニオ・モリコーネの美しい音楽が合わさってくる。
イタリアなんて住んだこともないのに、地元の田んぼや畑が住宅地になったり、古くからの知り合いの家が気づいたら取壊されてたりといったような、もう既視感ありまくりの強烈なノスタルジーを感じた。
でもアルフレードがこの郷愁に囚われてはいけないといったのはよく分かる。
トトの生きるべき世界は実際にその町ではなかったし、最愛のエレナとの別れもあったけども、だからこそ彼は好きなものに没頭出来て成功をつかみ取ることが出来たのだろう。
そんなアルフレードからの最後の贈り物が「お前のために保管しておいてやる」と言っていたカットされたキスシーンの繋ぎ合わせ。
いくらなんでも粋すぎる伏線回収と、これまでの2人の思い出が反芻されて、自分が知る限り映画で一番きれいなラストシーンだった。

自分が今まで観たのはどれも劇場公開版で、完全版だとアルフレードがエレナからのトトへの言伝を断るといったシーンがあるそうで、さすがにそれはアルフレードの印象が悪すぎるような気がするのでカットされてて良かったと思う。
他にもエレナと再会するシーンもあったりで、さすがにあんな宙ぶらりんな終わり方はないだろうと思ってたところがしっかりと補完されてて、まさしく完全版といった感じなのだろうか。
でもそうなると、劇場公開版と比べて完全版はエレナとの恋愛にテーマが寄りすぎてるような予感がするので、たぶん完全版を観ても自分の好みは劇場公開版ということになりそう。

題材が映画なだけで別に映画好きなら観るべきとまでは言わないけど、何十年も名作と言われ続けるだけのものを秘めてるのは保証できると思う。