売れない役者の男と、ブティックで働く女2人は同棲中であるが、少々倦怠気味。

結婚しよう
そう伝えたその夜に彼女にそのことを詳しく聞かれると
知らねーよ！とブチギレる、かなり扱いにくいダメ男っぷり。
次の日謝るが、また違う形で酷いことをする上に金くれとせがむ。

この映画においては役者たちは即興であるから、西島秀俊さん本人にこの気があるのでは？と疑ってしまう。

途中インタビューのようなシーンが挿入されるのがまたドキュメンタリーっぽさを演出しているが、激情型の2人がゆえ、しっかりとドラマティックな映画に仕上がっている。
古い映画作品であるが、リスキーな試みゆえに後に続くこう言った作品がないので今見ても新鮮だった。

なんでもやってやる！といったハングリーな精神の西島秀俊さん、この時はまさかハリウッドのアカデミー賞候補となる作品で主役を張るようになるだなんて想像もしてなかっただろうな。

『M/Other』が「断絶」の映画でありカサヴェテスであるなら、こちらは「破綻」の映画でありペドロ・コスタである。どちらにも共通するのは、その関係性に「変化」が起きて行くキーワードが「結婚しよう」である事。『M/Other』においてはそれぞれが自立をしており、既に家庭を持った経験のある父と、それが障壁となり母になれぬ女との断絶が描かれていた（あくまで個人の感想ですが…）が、この作品において「男」は人間的に破綻をきたしており、「女」は精神的に破綻をきたして行く。圭（西島秀俊）がそんな事を言い出した真意を優（柳愛里）は問い正そうとする訳だが、はっきり言ってそこに明確な目的はない、圭はただ結婚をすれば自分が正しき人間として存在意義を持つに至る（なし崩し的に）と考えているだけだ。優に於いても彼女一人ではその存在意義を持ち得ない、彼女は彼女で誰かに頼られる事によって自らの存在意義を認識しているのであり、この共依存にも近しい「デュオ」の関係は、互いが「ソロ」での活動を始めることにより破綻に至るが…。

フィクションとしても破綻しかける瞬間に、俳優自身の心境、そしてどう演じるべきかのインタビューが挿入され、その綻びに一応の修復が加えられ、物語は一応の形で終結へと導かれて行く。柳愛里の精神が破綻していく過程が余りにも見事、目は虚ろになり、突然笑みを浮かべたかと思えば嗚咽を漏らし、涙を流し、物を投げつけ、呂律が回らず…この人本当に壊れてないか？一つの関係が破綻し、1人の人間が崩壊していく様を目の前にして、男はただ無力に「大丈夫」を繰り返し、力無き腕で包み込む事しか出来ない。理想と現実、フィクションとドキュメンタリー、ここに描かれているのはただ「破綻」へと導かれていく男女の姿である。人間が容易く壊れる事を知っている人と、それを知らない人とでは見え方が異なるかもしれないが、はっきり言って自分が欲しているもの全てがこの映画には映っていた、痛く苦しい現実にただただ平伏するのみ、追いつけないのだ、男は女には。

• #これがどうしてアマプラに

見るものと見られるもの。

映画っていつもそれがちゃんとしているんだ。僕たちは見るものであり映画は見られるもの。だから僕たちは安全なの。映画の中で何が起きても僕らはただ「見ていれば」いいんだもの。

でも本当にそれでいいのかな。時にこの映画では僕たちも見られるものとして準備しなければいけないのでは、そんな感じを受けた。

監督の諏訪はドキュメンタリーの手法で「こんな時はどうする？」「こんな時はどうしてしまう？」と出てくる西島や柳に「勝手に」やらせてしまう。ある意味ほったらかし。二人は必死にその意味を考え、カメラの前で演技をする（ご丁寧に二人が悩んで演技することを語るシーンすらこの映画では撮られているんだ）。

僕らは？そう、僕らもカメラこそないけど普段「演技をしている」んじゃないの。そう諏訪は語りかけてくる。僕らも常に「見られるもの」として演技をしているんだよ。さらに諏訪は「あなたたちだって普段は見られているものじゃない」って語りかけてくるの。

相手が一人しかいなくても
相手が自分を気にかけなくても
相手が僕を見ていなくても
相手が演技のウソを見破っても

僕らは演技をしているんだ。そして「本当の自分」なんかないんだよ。常に見られていることを基に自分は形成されているってわけ（それってレヴィナスが言っていることじゃん）。

だからこの映画は居心地が悪い。自分はそこでどうする、どう演技する、どう怒る、どう笑う、どう泣く、どう感情を露わにする、どうするどうするどうする……常に矛先は自分に向かうんだよ。

でも

たとえ演技でも誰も見ていなかったらそれは寂しいはずだ。最後、柳は西島のもとに行く。見る者として、見られるものとして。