完璧な脚本というのが世の中には存在する。
怪しげな出生には怪しげな消え方が似合うのやもしれぬ。

主人公にとって宿命から逃げずに挑んだ事が、人間でいられる唯一の救いだったのやもしれない。

　生まれながらに居場所のない男の悲しきも美しい物語。町山さんと春日さんの対談を聞いて、是非見たいと思っていた一本。

　冒頭から「野良犬」のごとくワンちゃんのドアップ。そこから畳のドアップからカメラは髪を伝っていって亡くなったお母さんを写し、主人公雷蔵の出生の物語をサクサクっと語っていく。とにかく80分ほどの短い作品だから緩い場面や、無駄な場面が殆どなくて実に締まった構成になっている。

　生まれながらの差別に苦しみながらも、花を見事に育てる純粋さを持っている雷蔵は、自らの居場所を得んと人斬りの道へと進んでいってしまう。しかし、あがけばあがくほどに世間は、運命は彼を追い詰めていく。剣の師を自ら手にかけてしまい、暗殺を繰り返してでも擁立していた殿様はアッサリ死んでしまう。

　真面目に純粋に必死に生きようとしているのに受け入れられない、居場所のない男。そんな男が持つことができた唯一の心通えた愛する人の名は「咲」。そんな男の最期の場所は、二人の想いの結実たる花咲き乱れる花畑。

　ところで、町山さんと春日さんの対談で話しているラストの、雷蔵が花畑に消えていくというシーンがなかったような…。

犬より速く走れるといわれる人間というのが実際にいて、それはかつて浦和レッズに在籍していたFW"野人"岡野雅行でしたが、彼の能力を超えて馬より速く走れる人間というのを本作で初めて見ました。それがまさか市川雷蔵とは...映像を見る限り確かに野人よりも速い。

結構な変化球的時代劇。
柴田錬三郎原作ですが本作の侍のキャラクターとして用意されたのが、馬より速く走る、お花畑を作るのが得意、道端で居合の達人の稽古の様子を盗み見て彼と話しをするだけで剣が上達するなど。なんだか「あちゃぁ」ってなっちゃいますが、雷蔵が時折見せる錦織圭のような呑気で天真爛漫な笑顔とは結構相性良しです。剣鬼という尖ったタイトルに反して彼にわざと典型的な恰好良さを与えず、かといってコメディに流れないといった処に境界線を求めた作品だと思います。