関東軍に見捨てられ、大陸に取り残された満蒙開拓団の婦女子一行が、恐怖に怯えながらも艱難辛苦を乗り越えて命からがら新京（現：長春）まで逃げのびるお話。若尾文子のデビュー作ということで鑑賞したが、そんな好奇心は即座に消し飛ぶ。小説が原作だとはいえ、実際に即したストーリーはひたすら重い。

そして、レイプされ、自殺し、銃撃戦に巻き込まれ、野犬に襲われ、銃殺されそうになり、乳飲み子を失い、気がふれて、といった次々と襲い来る悲劇については、残酷で直接的な描写が回避されているにも関わらず、また、最も良く知られた悲劇、すなわち、我が子を手放し中国人に託さざるをえないという親子離別の悲劇にについては、触れられていないにも関わらず、それでも、戦争に対する恐怖と嫌悪に身震いがする。

戦争について考えるとき、具体的な悲劇を具体的に示されずとも、もし自分がそうした状況に置かれたら？という想像力を、我々は常に持っていたいものだと思った。

若尾文子、スクリーンデビュー作。

なんでも久我美子の代役というが、ふっくら健康的な彼女の表情や存在感は暗い作品に（結果的に）わずかな安らぎを与えているといえよう。

役柄としては主役の水戸光子や千石規子の存在感が目立つ。
特に千石規子の演技にはいつも目と心を奪われてしまう。
あと名前はわからぬが途中から合流した軍人の妻役の人が気丈で綺麗だった。

物語は重く、終始絶望が支配している。
そんな中、なぜキャスティングされたかわからない左朴全の佇まい、そして「人の肉の味を覚えた」という野犬たちののんびりした〝演技〟が微笑ましい。

終戦直後、満州に取り残された日本人難民母子たちの脱出行を描く厭戦ドラマ。若尾文子（当時18歳）の本格デビュー作。監督は戦前からの職人：小石栄一。助監：増村保造。撮影：姫田真佐久。音楽：伊福部昭。

戦後中国での日本人難民を描いた映画は初めて観た。銃殺、飢餓、雨風、野犬、発狂と、母子集団の苦難の道のりが続く。プロットは浅く暗い話が続くが、個人的にはコメディを観るより苦にはならない。それどころか、映像が非常に良かったので最後まで面白く観ることができた。機関車のミニチュアも良く出来ていて当時の大映特撮の力を再認識した。

「兵隊はあんなに威張っていたのに一番先に逃げてしまった」「戦争はいつも男が始めるもの」と厭戦を口にしながら、必死に子供を守って歩き続ける母親たち。GHQの占領が終わった直後の本作に、庶民の本音が代弁されているように感じられた。

若尾文子が演じるのは、唯一の独身で女性グループを引っ張る準主役。当時の映画解説には久我美子がクレジットされているが病欠により急遽の代役となった。ちなみに若尾のスクリーン・デビューは２か月前に公開された「長崎の歌は忘れじ」（1952）。

「日本に帰ったらもう一度、善光寺に参拝したい」と語った老婆が直後に亡くなるのは本当に可哀そうだった。

【あらすじ】
1945年の満州国。敗退した日本軍が続々と引き上げる中、日本人集落の母子たちの多くが辺境地に取り残された。高原集落の婦人会長は「日本人として清く自決しましょう」と皆に提言するが「子供のために最後まで生き抜く努力をしたい」との声が多数上がり、女七人子供七人の苦難の脱出行が始まる。目指すは満州の首都・新京。何とか鉄道貨車に乗り込もうとする母子たちだったが。。。