【寸評】
本作は、エロスと猟奇性を描こうとする意欲的な試みのある作品である。
だが、エロスの方に比重を置きすぎており、原作に合った知的要素やサスペンス性が全くない。
ラストシーンも伏線などを張るなどしていれば良かったものの、あれでは衝撃と言うよりただただ唐突感しか残らない。
結果的に奇抜なエロシーンを寄せ集めた作品のようにしか印象に残らない作品であった。


【演出】
「田中登監督」は過去作でエロティシズムとサスペンスを巧みに組み合わせられていたが、本作ではその融合が失敗しているように思える。
確かに「石橋蓮司」が屋根裏から覗くシーンは圧巻である。
暗い屋根裏という閉鎖空間で不気味に微笑む姿を巧みに映すことにより、彼の異常性を強調する。
その後の彼の異常な行動により、狂気と芸術性を見事に描写できている。
これ自体は何の問題もないのだが、問題はエロスの方だ。

日活ロマンポルノとして製作されている以上、エロスが主軸になること自体は理解できる。
だが、いくら何でもエロシーンが多すぎる。
せっかく作品内で狂気のサスペンスを演出出来ていても、エロシーンの比重が大きすぎて、エロスとサスペンスの結びつきが弱くなってしまっている。
結果的に、物語冒頭にあった物語の緊張感や恐怖感が希薄になってしまい、全体的に退屈な印象を受けてしまう。

本作でエロスは必要不可欠なので、挿入するのは間違いないのだが、もう少しサスペンスに比重を置いて欲しかった所だ・・・。


【脚本】
本作は色々と原作を改変したものとなっており、大きく見ると

・「明智小五郎」が登場しない

・『人間椅子』のエピソードを絡めている

・破壊的なラストシーン

となっている。
これらを上手く活かせれば良作になっていたのかもしれない。
特に『人間椅子』を絡めた部分に関しては、上手くいけば覗き見の快感というテーマをより深く掘り下げることが出来ただろう。
しかし残念ながら本作ではこれらを全く活かせていない。

「明智小五郎」が登場しないことによりサスペンス要素が限りなく少なくなり、変わりにエロシーンが大量に導入された。
結果的に原作の持つ知的な構造が完全になくなってしまっている。
せっかく覗きというフェティッシュな要素を再現できているのに、全体の筋とどう結びついておらず、ただのエロシーンとしか消化されていない。
何とも残念である。

『人間椅子』という要素も上手く機能していない。
確かにシーン自体は視覚的にショッキングではあるが、物語としての必然性は特になく、単なる猟奇的なシーンを挿入しただけの印象でしかない。
単にストーリーの軸が見えにくくなったようにしか思えないので、こんなんなら入れなかった方が良かったのではないだろうか・・・。

ラストシーンに関しては、まぁ唐突過ぎるよな・・・。
あまりにも唐突過ぎて、唐突感しか残らないよ・・・。
「江戸川乱歩」特有の破壊とカタルシスを表現したいのは分かるんだけど、前の物語とそのシーンが全く結びついていないのよ・・・。
劇中でもう少しそれを示唆する伏線やメタファー的なものがあったら、全然違っていたと思うのだが・・・。

70年代ならではのカルト風味が強い、異色の江戸川乱歩作品。
ロマンポルノのカテゴリーで、たしかにセックスシーンも多めなのだけど、エロさよりもサブカル色が強くて原作の世界観からは別の方向に一人歩きしてしまってる感じ。
下宿で紅を塗った道化師と逢瀬を重ねる貴婦人、女体にシュルレアリスムアートを施す女性アーチストの存在、女中を手篭めにしようとする神父などなど、、
屋根裏を毎夜散歩する郷田を演じるのは若き日の石橋蓮司さん。
無表情で何を考えているのかわからない不気味さが最後まで続く演技が印象的でした。
この作品の面白み本当は天井裏からヒ素で寝ている男を殺すという密室完全犯罪という点ですが、この作品においては宮下順子さんが演じる妖艶な貴婦人がセックス中に殺人を犯すシーンが色っぽい。
屋根裏の散歩者である郷田は二の次で、人間椅子のエピソードを取り入れたり、とことん宮下順子さんで翻弄させた作品でありました。

【 江戸川乱歩 : 大正14年の小説を映像化① 】
　
原作が1925年（大正14年）に発表された乱歩の短編探偵小説「屋根裏の散歩者」と「人間椅子」をベースとして1976年(昭和51年)に映画化された作品。

郷田三郎(怪演 石橋蓮司_当時35歳)は屋根裏を徘徊して覗きするのが趣味。ある日、郷田の下宿する別の部屋でピエロを相手に貴婦人が倒錯的な行為をしているのを覗き見てしまう。そんな風に退廃的な世界とその先にある闇へと展開していく。

この映画のキーワードは
　屋根裏、覗き、快楽、貴婦人、ピエロ、
　運転手、椅子、毒殺、関東大震災など。
　映像表現や、役者、音楽、独特すぎ。

江戸川乱歩って、貿易会社のサラリーマンやって、学校教師と結婚した所謂平凡なキャリアなはずなのに、どうやったらこんな独特な世界観が構築できたんだろう。。

• #江戸川乱歩原作