ユダヤ人として育ち、生きてきた青年がユダヤ教の存在を疑問視し、夜はネオナチとして活動する。その狭間で揺れゆく心情と破滅への描き方がかなり危うい。が、プロパガンダ映画と言うより、一部の人間の無知、無関心に言及した批判的映画に感じた。

ライアン・ゴズリング（当時20歳）の初主演作。ユダヤ人であることが暴露されて自殺した実在のネオナチ、ダン・バロス（～1965）をモチーフに映画化。脚本家ヘンリー・ビーンの監督デビュー作。サンダンス映画祭で審査員大賞。

ニューヨークのネオナチ青年ダニエル（ライアン・ゴズリング）は、近所のファシストたち集まっている邸宅に足を踏み入れユダヤ人銀行家マンゼッティの殺害を主張。過激すぎると反対されるも弁論力を認められ、その家の娘カーラと恋仲になる。やがて彼はファシストキャンプに参加し銃や爆発物を得意とする仲間と共にユダヤ人テロの準備を始める。そんな中、ヘイトグループを追うジャーナリストから取材が入り、ダニエルが実はユダヤ人であることを知っていると告げられる。。。

非常に面白かった。“ユダヤ人のネオナチ”という設定によって、一般的な差別主義者の習性を追いつつ宗教とアイデンティティについて深く掘り下げて描かれていた。ライアン・ゴズリングも複雑な内面を持つ主人公を巧く表現していて惹きつけられた。

冒頭から引用されるアブラハムとイサクの逸話。旧約聖書で最も重要かつ引っかかるところで、自分も主人公ダニエルと同じような感想を抱いている。これを吞み込めるかどうかはユダヤ教、キリスト教の信仰において大きなポイントになる。自分の場合は教養として聖書に接しているだけだが、主人公にとっては生き方に関わる大問題であり、自分の潜在意識に刷り込まれた教義を否定したいばかりに強い憎悪に至るプロセスは理解できる。

知性的な動機からネオナチに身を投じた主人公に対し、周囲のメンバーはヒトラーの名を賛美しながらアイヒマンの名も知らない無教養な白人として描かれる。筋トレ好きのマッチョと肥満ばかりでいかにも類型的な描写だが、「連邦議会襲撃事件 緊迫の4時間」（2021）に映っていた実際の極右たちも皆似たような風体だったので誤りではないのだろう。

落としどころは真摯でありながら皮肉な結果で実に秀逸だった。彼は最後まで聖書を否定したが僅かな良心を示した。決して殉教ではなく人間としての意志で選択したのだと受け取った。

モデルとなったダン・バロスは、タイムズ紙で彼がユダヤ人であることが報道された当日、「白人種万歳。私にはもう生きる理由がない」と言い残し胸を撃ち抜いたと伝えられる。享年28歳。

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