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ヒトラーへの285枚の葉書のneroのネタバレレビュー・内容・結末

ヒトラーへの285枚の葉書(2016年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

原題は「Alone in Berlin」 たった一組の夫婦の抵抗の記録だ。
本当にさあ、邦題のいい加減さ、なんとかならんのかねぇ。確かに葉書っちゃあ葉書だけどさあ...

フランスが降伏し戦勝ムードに湧くベルリン。アパートに暮らす夫婦の元へ一通の軍事郵便が届く。息子が戦死したことを知り悲しむ妻アンナ。掛ける言葉もなく仕事に向かう夫オットー。職場ではナチ党員による増産の激が飛ぶ。息子の死以上に捧げるものなど無いと静かに抵抗するオットー。棺桶工場の職工長という立場が皮肉だ。
帰宅すると息子の遺した科学書を開き、挟まれたヒトラーの写真の文字を”嘘つき”と書き換えて閉じる。淡々とした表情ながら、父としての静かな悲しみが怒りに変わるのが伝わってくる。
翌日オットーは1枚の絵葉書を書き始める。筆跡をごまかすためカナクギ文字で。内容は「ヒトラーは息子を殺した。あなたの息子も殺される。」というもの。出勤途上のビルの階段にカードを置く。これが最初の1枚だった。

街のあちこちに置かれるカード。メッセージは次第に体制批判・反戦の性格を明確にしてゆく。夫婦2人での活動となり、やがて「フリー・プレス」と銘打つようになる。連合国の反攻・ベルリン空襲と、世情も緊迫し、放っておけなくなった警察が動き始める。
階上のユダヤ人老婆や老判事との関わり、町のユーゲント達の台頭、アンナの婦人会活動など、当時のナチスと一般ドイツ国民の距離感が皮膚感覚として伝わってくる。警察と親衛隊の力関係もポイントだ。

結局オットーの「フリー・プレス」は267枚目で発覚、夫婦ともに警察に逮捕される。オットーが書いたカードは285枚。18枚は民衆に届いたのか? オットーは変わらず無表情だ。

裁判の結果二人は斬首。処刑場に向かうオットーに警部は「何かできることは?」と問う。彼は「カードとペンを」と相変わらず静かな声で答える。
警部は自身を良きカード読者であったと認めたのか、回収した全カードを窓からばらまいて自決する。

原作は実話を元にした小説だそうだ。最後の警部の行動はフィクションとしての決着によるもののように思える。孤立感際立つ原題も、このたった一組の夫婦のレジスタンスを象徴しているのだろう。夫婦愛の物語としても心に残る。
残念なのはダイアローグが全て英語なこと。字幕文化が少数派だというのは解るが、これはドイツ語で聞きたかった。
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