物語が進むごとに映画に厚みを増す傑作。まさに秀でたお美しさな映画。
メイドのスッキ(珠子)、お嬢様の秀子、そして伯爵の3人を中心に物語が展開される。
本作は2時間半の中で三部に別れ、それぞれ第一部ではスッキ(珠子)目線、第二部では秀子目線、第三部では両者の目線を踏まえてのその先が描かれる。
…もう、めちゃくちゃすきな映画だった!!
構成も展開もキャラも挟まるギャグも全部すき。強いて言うならちょっと地雷あったことくらい。
久しぶりに映画見たあと放心状態になった。かなりぐるぐるしてるのでこの文章もぐちゃぐちゃかもしれん。あとで読み返して頭抱えそう。
----------------ここからネタバレ-----------------
第一部
スッキと伯爵が秀子を騙して金を獲るという単純な計画から始まる。これはまだ映画の厚みが薄かった頃。
珠子は闇商人に囲まれて育った抜け目がない女として見える。無知で純粋な秀子お嬢様と対象的に世の中を知るしっかり者に見えた。
「お嬢様と珠子は愛し合ってて、でも珠子と伯爵は金のために騙さなければいけない…。普通に面白い禁断の恋の物語…。」ってだけじゃないのがこの映画。一枚岩じゃないのよ。
精神病棟で珠子がお嬢様ということになっててぶち込まれる。物語が急加速する音が聞こえる。そこで第二部に入る。
えええええっ!?て感じ。全細胞が映画に惹き込まれるのを感じた。
第二部
第一部の物語を秀子お嬢様視点で追う。
ストーリーの奥行きがどんどん広がる。
同じ展開なのに、第二部は秀子より珠子の方が無知で純粋に見えるのが面白い。
「そうか、珠子こそが騙されていたのか…。あの精神病棟の件はそういう事だったのか…。」ってだけじゃないのがこの映画。
2人の恋心だけは嘘じゃなかった。
2人は協力することになる。
第二部はただの種明かしパートでは無かった。
あくまで秀子の見た景色だった。
変態紳士クラブの春画本朗読会は色味が綺麗なのとカタコトの日本語で半分何言ってるかわかんない感じの文は面白さと不気味さでえも言えぬ感覚だった。
あの独特の雰囲気は見てくれとしか言えぬ。
美しさとキモさと気品と滑稽さが混ざりあってぐちゃぐちゃになってる。
秀子お嬢様が首を吊ろうとするシーン以降がとにかく爽快で、本を片っ端から破いていくシーンは全私が大盛り上がりだった。
「蛇は無知の境界線」、これはおそらくエデンの園で蛇が知恵の果実を唆したことに由来する。無知である(字を読めない)珠子が知恵(稀覯本)を破壊し蛇(恥を与えるもの、爺さん)を砕くのはカッコいい。
閉ざされた世界を破壊してお姫様を助け出すヒーローにはいつだって胸が熱くなるのだ。
第三部
2人の視点を把握したうえでの補足と物語の結末。ここまできたら2人に不幸は訪れない。伯爵はかなり可哀想だったけど。
私事だが、人体切断がどうにも苦手で、以前「オールドボーイ」を見たときも終盤で気分が悪くなった。本作もかなり厳しくて吐き気を催してしまった…。
(視聴後に同じ監督だと知って「お、お前またやりやがったなぁ!!」という気持ちになりました。)
本作の三部構成と二者視点での描き方はまさにラストシーンのためといっても過言ではない。分厚く分厚く何重にも折り重ねられた物語はラストシーンで最も印象的に作用する。
“暗い海と鈴の音”
そのシチュエーションだけで彼女たちの心と今までの物語を美しく表す。
この映画こそ「秀でたお美しさでございます」って感じ。