『ポップスター』
原題Vox Lux.
Vox Lux.はラテン語で、英語では『Voice of Light』(正しいラテン語の翻訳は《VoxLucis》)と説明書があったし、『光の声』て感じの和訳になるんかな。
Vox Lux.は単にボイス、ライトという2つの名詞ちゃうんかなぁと。。。

製作年2018年。上映時間110分。

ナタリー・ポートマンが主演と製作総指揮を務め、カリスマポップスターの壮絶な生きざまを描いたドラマ。
敏腕マネージャー役をジュード・ロウ、幼少期のセレステと彼女の娘の2役をラフィー・キャシディが演じる。
監督・脚本はブラディ・コーベット。
企画発表当時はルーニー・マーラが主役に決まっていたそうっす。
企画が保留になった後、マーラが降板し、代わりにポートマンが出演。

クラスメイトによる銃乱射事件に巻き込まれ、生死の境を彷徨いながらも一命を取り留めた14歳の少女セレステ。
皮肉にも姉エレノアと作った追悼曲が大ヒット。
敏腕マネージャーに見初められてスターダムへと駆け上がる。
18年後、度重なるスキャンダルでトップスターの座から転落した彼女のカムバックツアー初日を前に、ある事件が起こる。
それは、かつて彼女が被害に遭った事件を模倣するものやった。
トラウマがよみがえる中、再起をかけてステージへと向かうセレステだったが。。。

今作品のウィリアム・デフォーによるナレーションが迷惑か否かは賛否両論あるとは思いますが、個人的にはナレーションの使い方は純粋に良かったかなぁと思います。
映画をリアルに近づける雰囲気にし、短い時間で大量の情報を伝えてくれたし、このペースは新鮮かなぁと。
また、今作品の撮影の多くが、街中や長い廊下を歩く登場人物を後ろから撮影した長いワンショットのシーンで、独特な感じを受けたかな。
出演者に至っては、ジュード・ロウは、気の利いた仕事人間でナンセンスな理想主義の経営者を演じてたし、善き演技を披露してたかな。
ラフィー・キャシディは、一人二役を巧くにこなしてた。
ほんで、ナタリー・ポートマンがまだこの時点でオールスター女優やなかったら、今作品で素人目でも本物のポップスターやと思ったやろうなぁ。
レディー・ガガ、リアーナ、ケイティ・ペリー、マイリー・サイラスなど、明らかにブラディ・コルベットがこの役のモデルにした女性たちに違いない。
今作品のテーマ的には、最も重要な関心事は、セレブと名声、特に21世紀のポスト・リアリティTVの化身をシニカルに解体することかな（エンディング・クレジットに『21世紀の肖像』という副題が付けられているのはそのためかな）。
事実上、誰でも有名になれる時代にあって、この映画は痛々しいほど時代に即してるし、有名人や名声の仕組みについて語るのと同様に、有名人に取りつかれた文化について語っている。今作品で重要なんは、大人になったセレステに好感や共感を持たせようという試みが全くなされていないこと。
確かに、彼女は時代の産物であり、13歳のときに起こったことの枠組みの中で一生を送ることを余儀なくされている。
しかし、彼女はその時代の最悪の要素の象徴でもあり、コルベット監督は観てる側が彼女に共感するかどうかには無関心かな。
もちのろん、今作品の痛烈な風刺の多くは、セレステが銃乱射事件に基づいてキャリアを築き、レコードを売るために利用されるという筋書きそのものと結びついている（これを視覚的にうまく表現したのが、セレステが銃撃戦の後に身につけなければならなかった首のスカーフを自分のブランドのキラキラしたアクセサリーの一部に変えてしまうこと）。
アメリカは銃乱射事件があまりにも日常化し、音楽的キャリアの出発点となり得る世界において、彼女は文字通り悲劇の受益者なんやろな。
セレステ自身、ポップカルチャーと大量殺人を結びつける重要な要素を、『ニヒリストの過激派グループがスーパースターとして認識されている』と語っている。
これは『ナチュラル・ボーン・キラーズ』（1994）のメインテーマを彷彿とさせるけど、1994年当時よりも今日の方がより適切な感情であるといえるかな。
例えば、コロンバイン銃乱射事件の犯人、2012年のコロラド州でのオーロラ銃乱射事件の犯人、2017年のラスベガスストリップ銃乱射事件の犯人、あるいは米国を離れて2011年のノルウェーのウトヤ島銃乱射事件を、アメリカ人の多くが、加害者の名前を知っていることを考えてみるとエエんかな(日本ではあまり馴染みがないとは思うが)、逆に、これらの悲劇の犠牲者のうち、頭から名前を挙げられるのは何人いるか。
今作品は、ポップカルチャーとテロリズムのクロスオーバー、つまり一方が他方にどうつながるのか、あるいは両方が名声を得る機会を提供するのか、という問いに対する答えを提示していない。
監督のシニシズムは、物事がこうであるからといって、こうあるべきとは限らないということを強調していると思う。
そして、この映画の核となる皮肉は、1999年には銃乱射事件がセレステを形作ったが、2017年にはセレステが銃乱射事件を形作ったということであると思う。
これは21世紀のセレブリティの時間軸の悪夢です。
ただ、より地に足の着いたセレブリティとの関わりもある。
例えば、序盤のシーンでセレステは『自分の運命の指揮を執っている』と誇らしげに宣言し、その直後に飲み過ぎてトイレに嘔吐するシーンがある。もうひとつの側面として、本作がクーパー監督の『スター誕生』（2018年）と共通するのは、時間が経つにつれてセレステが文体の原点からどんどん離れていくこと。
キリスト教の善良な少女としてフォークミュージックや優しいバラードに導入された彼女は、大人になって会うと、マドンナやケイティ・ペリー、レディー・ガガをオートチューンでシリコンに融合させ、その音楽はボーイバンドのクオリティより一段上になっている（彼女自身も『人々に難しく考えてほしくないの』と語っている。『ただ気持ちよくなってほしいの』と）。 問題点としては、いくつかあり。
21世紀文化のイデオロギー的な衰退を、一人のポップスターの栄枯盛衰に重ね合わせるという高邁な目標を掲げた作品が、大きな課題を抱えていることは明らかであり、コルベット監督の野心が彼の手の届かないところにある場合もある。
大人のセレステの部分は間違いなくメロドラマに逸脱しており、第1幕があまりに素晴らしいので、それに比べると第2幕は少し平凡に見えてしまう（フィナーレは魅惑的ではあるが）。全体としては満足できるけど、第1幕が何かを仕組んでいるようで、第2幕がそれを実現できていないという印象がぬぐえない。
とはいえ、この作品は、現代文化とそれを推進する力に対する、悪意に満ちた、深いシニカルな、そして深い皮肉に満ちた断面がある。
しかし、ミレニアル世代のポップな風景に多くの批判を見いだしながらも、コルベット監督は決してニヒルではない。
セレステは魂を失ったかもしれないが、一過性であっても、何百万人もの人々を幸せにすることができるのだんやから。
コルベット監督は、彼女を通して、時代の犠牲者であると同時に、その無感覚な神格化によって、プライベートとパブリックの間の相互作用に関連する問題を探求している。
私たちは社会としてどこにいるんか。
有名人に対する我々の執着は、我々について何を語っているんやろか。
名声の代償は何なんか。
名声と悪評の間に本当の違いはあるんか。
なんて問いかけてる映画やと感じました。
まぁ、どうあれ今作品は、音楽界のカーテンの裏で起こっているもっと醜いことを掘り下げれたとは思うけど、その必要もないかなぁと思うし、ストーリーを過剰に演出しようとしなかったので、このドラマの量にサクッと見れてとても満足してるんは変わりない。

記録。
傷だらけのカリスマ。

フィルマの評価で大分ハードル下げたおかげでまぁ観れなくもなかったナタリー・ポートマン主演作。新作と思いきや3年前の作品なのね。

2000年。
学校で発生した銃乱射事件によって瀕死の傷を負いながらも生還した14歳のセレステ。姉のエリーと作った犠牲者への追悼曲がキッカケで歌手デビューするも、段々とスれていく。

2017年。
スキャンダルにまみれボロボロの精神状態ながらもスターとして顕在のセレステの元に銃乱射事件のニュースが舞い込む。犯人が彼女のMVで使用されていたマスクを被っていたことからセレステは更に不安定になっていくが…。

んー、まぁナタポのメンヘラ演技に引き込まれたのもあって観れはしたけど、で？ていう感じではありましたね。評価低いのは頷けます。

ブラディ・コーベット監督曰く、悲惨な事件がポップカルチャーと同じような扱いでメディアに扱われていることに着想を得たんだそう。そういった現代の情報化社会への危惧、あるいは警鐘といったメッセージを込めたかったんだろうか。

でもごめん、
これじゃあんま伝わらないと思う。

恐らく作品のテーマから外れるからだろう、ショービズの世界に身を置くスターが経験するアップダウンの苦悩的なものを描くことは無いし、銃乱射事件とのリンクもイマイチ。

さらに驚いたのはラストでナタポ&ダンサーズが披露するステージパフォーマンス。なんかこう、気が抜けるというか全然カッコよくない。むしろダサい。振り付けはナタポの旦那さんだそうで…。でもここは逆に面白かったかな。

どーでもいいけど、マネージャー役のジュード・ロウ、心なしかちょっと髪増えましたかね。

公開時、ナタリー・ポートマン主演だし、絶対見る気でいたのに、あまりにも Filmarks の評価が低いのでスルーしてた作品。

冒頭、前情報なしに見た私は、衝撃的な事件にびっくりした。「え？　ポップスターでしょ？　どんな話になるの？」。

かなりシリアスなテロ事件を描いた “PRELUDE” を受けて、この少女がどう成長していくのかと思って見ていると、追悼の集会か何かで歌った歌が、急遽作ったオリジナルにしては出来過ぎなくらいいい曲で、その後はテロはほぼほぼ関係なく、ポップスターへの道を楽しそうに歩んで行ってしまう。

「え？　じゃあ、冒頭のテロはなんだったの？」

ラフィ・キャシディが「セレステ」を演じている少女時代の “ACT 1” は、純粋にスターへの道を駆け上る音楽青春映画風だったのが、

やっとナタリー・ポートマンが出てくる “ACT 3” になるといきなり舞台は18年後に跳び、歌姫「セレステ」は31歳、大スターではあるが、轢き逃げ事件やら、アルコール依存症やら、人格も、よくある成功したものが陥る人格破綻のようなものに陥っていて、ナタリー・ポートマンが演じているほとんどの部分が、姉や娘との言い争いばかり。

テロの悲劇を描いた “PRELUDE” も、スターへの成功物語を描いた “ACT 1” も、ピークを過ぎて生きづらい姿を描いた “ACT 2” も、それぞれのパートはよくできていても、お互いのパートが有機的に結びついていない。

だからテーマもわからないから、最後に、グダグダの私生活から、突然素晴らしいステージを披露しても、それが何？って感じで何を訴えているのか、さっぱりわからない。

みんなの評価が低いのも頷ける。

テロを扱うなら、こんな凝り過ぎたおかしな脚本にせずに、テロから立ち直った健気な女の子の成功物語にしておけばよかった。なんだが、過激なテロをただのインパクトに使っただけみたいな設定は、本当にテロにあった人たちに失礼な気がする。