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天才ヴァイオリニストと消えた旋律のbackpackerのレビュー・感想・評価

4.0
信仰

"第二次世界大戦×ユダヤ人の音楽家"と聞くと、私はロマン・ポランスキー監督の『戦場のピアニスト』を連想します。『戦場のピアニスト』が見せつけた当時のユダヤ人のリアルな境遇描写は、人間の闇が溢れ酸鼻を極める有様をまざまざと見せつけ、まさに目を覆いたくなるような地獄絵図となって、鑑賞者の心を揺さぶってきました。

本作では、名優ティム・ロス&クライヴ・オーウェンがW主役として、イギリス人少年マーティン(原作ではユダヤ系ですが、映画ではティム・ロス発案でその設定をカット。)とポーランド人少年ドヴィドルの姿を通して、ユダヤ人の身に降りかかった恐ろしい出来事の一部を辿り"その場に居合わせなかった当事者の苦悩"を掘り下げていきます。
その過程で、二人の少年の友情・喪失・成長(前進)が、過去と現在を行き来しながら、少年→青年→中年と時を重ね展開し、言葉にならない家族への想いと目を背け難いバックボーンを重く纏わせながら描いていくのです。


映画音楽、いやさ音楽映画の持つ魅力は、時折底知れぬ魔力となって、恐ろしいほどの感動のパンチを繰り出してきます。
本作は、二人の男の兄弟愛の物語であり、ホロコースト等の犠牲となった死者達への追悼であり、時が経ち忘れられていく過去を風化させない為の戒めでもあります。
暗く恐ろしいリアル戦争映画でよく見られるような、直接的なホロコーストの惨劇を描いてはいません。だからと言って、その苦しみを表しきれていないわけではないのも間違いありません。
特に、『ロード・オブ・ザ・リング』シリーズ等で知られる名匠ハワード・ショアが音楽監督として紡いだ旋律の美しさと哀しさの混じり合った感動の音楽。それを演奏する台湾系オーストラリア人ヴァイオリニストのレイ・チェンが奏でるストラディヴァリウスの音色の艶やかさ。これがとんでもなく素晴らしい。
この音楽の力によって、ホロコーストの風化という差し迫った問題への一種の警鐘と、戦争がもたらす悲惨な現実を心に響かせてくるため、もう感動して感動して……。

正直私は浅学な身であり、音楽的な教養はからっきしです。
しかし、そんなことは関係ないんです。力ある物語、力ある音楽、力ある演技、それが心を動かしてくれるんですから。
マーティンがカディッシュ(ユダヤ教の死者を悼む歌)を唱える姿。いい終わり方でした。
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