【はたらくおじさんの絆が宙(ソラ)を拓き、歴史を紡ぐ】
シネマート新宿で予告が流れてた時から「われこういうのすき!」と思っていた映画だったのですが、いざ実際に観てみたら「われこういうのすき!」に溢れていた期待通りの良作。とんでもない変化球は凄い変化つけて投げてくるんだけど、シンプルに良い話は直球ストレートに投げてくる。韓国映画のこういうところもわれすき。
「おじさんが可愛い」
「おじさんがひたすら頑張ってモノ創りをする」
「おじさん同士が童心に帰ったように戯れる」
「おじさんは王様と奴婢と身分が大きく違うのに硬い友情を結ぶ」
列挙する限りの「われすき」ポイントはこんな感じでしょうか……われはなんかおじさんがイチャコラしながら何かがんばる作品がすきなのだが、汝はどう?
というワケでまあここまで好きな要素詰め込めばそりゃ面白くなるよねっていう期待通りな作品なワケです。
世宗大王は韓国における名君の中の名君。支配力を強める明や猛威を振るっている倭寇に囲まれながらも安定した統治を敷き、天文学・農業・音楽・兵器といった様々な分野を一段階引き上げ、ハングル文字を開発して現代にまで続く韓国の礎を築き上げた傑物です。
向こうでは護国の将・李舜臣と並ぶ国民的英雄で、映像化作品も数多くあるようですね。
そして、本作で世宗と共にピックアップされるのが彼の技術官を務めた蔣英実(チャン・ヨンシル)。彼は奴婢という身分でありながら(と言っても父親は高官も勤めたということなので没落貴族みたいなもんでしょうか)、その手先の器用さと類稀なる知識と発想力を世宗に見出され、技術長まで立身出世を遂げたという実在の人物です。そして、彼もまた少ない情報から正確無比な水時計を完全再現した上、天体の知識が豊富で明に先駆けて渾天儀を作り上げたという傑物。
こうした身分が違う時代の傑物2人が奇跡的に出会い、そしてモノ作りの喜びと天体への知的好奇心という共通項から惹かれ合うというのが微笑ましい。特に天体への興味は重要なファクターで、いかな身分の者でも上を見上げれば同じ宙(ソラ)が広がり、その広大さの前では全て平等である…という2人の友情をも肯定する存在としてあるのです。
そして、星空の下で英実に世宗が語るのは技術革新によって独自の文化を築き、従属を強いる明の脅威を跳ね除けること。その壮大な国を思って語る夢に英実は尊敬の念を新たにし、そしてその力となるよう誓います。
このように基本的に世宗は大局を見据えた統治者としての知見から英実のことを高く買っているんですが、根本の部分は結局「モノ作り大好き!星綺麗!」と単純に趣味が合うから重用しているってのも良い。英実もこのことをわかっているので、基本的に彼の発明は世宗を楽しませるためにあるのが微笑ましい。
障子に穴を空けまくって部屋を暗くさせ、裏側から蝋燭で明かりをつける疑似プラネタリウムを作る場面なんかは2人の関係が主従ではなく、いたずら好きの男のコ達の創意工夫って感じの現れで特に好きでしたね。
しかし、そんな彼らの友情も魑魅魍魎が跋扈し、バックにある大国・明の脅威が忍び寄る政治の場では目障りなものと見なされてしまうのが物哀しい。世宗は自分の理想と夢の間でもがき、英実もそのことを察しながらも何も出来ない自分に憤ります。
明や腐敗した政治家が明確な敵となる後半のパートでは、色々ままならないことも多くストレスが溜まる場面も続きますが、英実が明に示した凄まじい胆力や、激おこ粛清モードに変身した世宗などでいくらか溜飲を下げてくれるのが嬉しいです。あと、後半から出張ってくる技術局の三馬鹿が良い息抜きになるコミカルな役回りなのも楽しい。
そして、史実を上手く絡めた上で、この2人のおじさんの友情に対して映画独自の結論にまで持って行ったのも見事です。おじさん同士のブロマンスでもあり、良い歴史映画でもある。シンプルに良い作品としてまとまっていました。
後半の政治パートで重要になってくる「ハングル文字の開発」に関してはなあなあになってはいましたが、これは映画クライマックスより後の世宗大王の後半生でやっと達成した事業ということなので仕方ないかな。むしろ世宗大王の事業の広範さってのは映画1本じゃまとまりきらないものということへの証左でもあって、本当に凄い偉人だったのだなァ……
ハングルの開発に関しては『パラサイト』で世界的スターとなったソン・ガンホが世宗大王を演じた『我が国の語音』で描かれているとのこと。どうやらこちらでも世宗大王は僧侶のおじさんと組んで、また色々やっているようなので面白そうですね。ただ、日本公開に関しては今もなお未定とのことなんで、こちらは気長に待ち続けたいと思います。
オススメ!!