あまのかぐや

グッバイ、レーニン!のあまのかぐやのネタバレレビュー・内容・結末

グッバイ、レーニン!(2003年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

後味悪いレビューに被せるように矢継ぎ早に連続アップ(笑)

言ってみればこれも戯画風といえますが、こちらは心温まるドイツ映画。ドイツ近現代史のお勉強にもなります。

1989年、東西ドイツにとって、そして世界的にも歴史に残る大きな年。

東ドイツでテレビ修理工をしているアレックスは姉、母の3人暮らし。アレックスの父親は10年前、女と西ドイツに亡命し、3人は置き去りにされました。それ以来、母は西を嫌い、社会主義運動に傾倒し、少年団の教官を務めて国から表彰されるほどまでになる。そんなとき母は、息子のアレックスが社会主義政府に反対するデモに参加する姿を見かけ、そのショックで道端で心臓発作を起こし搬送される。昏睡状態だった母が奇跡的に目を覚ましたのは8か月後のこと。東西を隔てる壁は壊されたあとでした。
すっかり西側の影響を受け変わってしまった東を、母に見せたくない。と考えたアレックスは、あれこれ手をつくし、母が昏睡するまえ同様の東ドイツの姿をねつ造します。
東で売ってたピクルスの瓶詰が生産中止になれば、母が知ってる頃のピクルスの空き瓶を拾ってきて詰めかえたり、ビデオ編集が得意な友人に頼んで偽の東ドイツニュースを作ったり・・・いっぽうでは姉は資本主義のシンボルのような「バーガーキング」で働き、西ドイツの男を付き合ってどんどん染まっていきます。このあたりのアレックスの奮闘ぶり、西側ナイズされた先進的で華やかな社会に舞い上がりがながらも、あまりに急な変革になかなか慣れず振り回される姿がコメディ風に描かれます。

わたしがニュースで知った限り、分断された両国が統一された様子はお祭り騒ぎ、おめでとうおめでとう、という報道ばかりでしたが、その裏で、それまでの生活がガラッと一変した庶民の様子はこうだったんだろうな、と思いました。そんな生活民レベルでの「統一」を描いた本作、20歳そこそこの青年を演じる初々しいダニエル・ブリュールがとてもよかった。
パッと見、マザコンかよ、と思ってしまいますが、父亡き後、自分たちを守り育ててくれた母を思う気持ち、母の命や心を気遣う気持ちに打たれました。やり方は幼いし浅はかなんだけどね。

その中でアレックスは知りました。「東西統一ばんざい」と、世の中一斉にもろ手を挙げて喜んでいるばかりではなく、大きな変革へのとまどいや、東ドイツ独自の生活を懐かしみ古き良き生活を、続ける母に会いにきて安心したりする人もいる。自分ばかりではなく、周りにも少なからずそういう人がいることに気付いていく。

かつて東ドイツの子供たちの憧れだった宇宙飛行士が、タクシー運転手となっているすがたに出会うシーンがなんともいえず突き刺さります。そこまで全てが大きく変わったのか、と。痛みや傷をおう変革とは違う、それでも長らくの価値観、うまれついての価値観を強引に変えなくてはついていけない変革だったのね。

母を思うためのねつ造はやがて、緩やかに穏やかに進む自分たちの心の中での「理想の統一」への納得の形になっていく・・・

ラストは姉夫婦とアレックスとその彼女、お母さんで思い出の森の別荘にピクニックに行きます。そこでお母さんはこどもたちに一つ、過去に関する重大な告白をします。

今、感想を書きながらふと思いましたが、もしかしたらお母さん、ある時点から息子が一生懸命取り繕うねつ造、実は気づきながら騙されてあげていたのかな、って・・・。ヘリでつられたレーニン像が空をわたって運ばれていく印象的な(でもマンガ的な)シーンがありました。軟禁されていた寝室から抜け出し、アレックスの目を盗んで、数か月ぶりに外の世界をみた母の目にそれが映った時、母は今度は失神するではなく、何とも言えない表情でそれを見送っていたのでした。

若き日のブリュールはじめ、演じる人たちがみな綺麗でかわいい。特にお母さん役の女優さんは東ドイツ出身の方だそうです。理知的な美しさがあり、すごく素敵なお母さんです。
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