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ファイナル アカウント 第三帝国最後の証言のbackpackerのレビュー・感想・評価

3.0
世界大戦を知る世代がいよいよ少なくなってきた中で、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻が勃発し、改めて戦争を考える場面が日常に多く溢れるようになった2022年。
ヒトラーとナチスによる第三帝国の時代を知る人の多くは、既に時の流れの彼方へと去っていきました。
しかし、1920年代からそれ以降に生まれ、現在は高齢者となった者たちは、ナチス思想に染め上げられた幼少期を過ごし、当時を知る貴重な存在となっているわけです。

本作は、2008年にルーク・ホランド監督が行った高齢者達へのインタビューに、現在の収容所及び近郊の様子を、ドローンによる空撮等で撮影しインサートした、赤裸々な本音の垣間見えるドキュメンタリーです。
そのテーマからして、厳粛な気持ちで鑑賞せざるを得ない、重めのドキュメンタリーではありますが、戦争責任について考えることは、我々日本人も避けては通れない道ですので、公開初日に見ておいて良かったです。

登場するのは、親衛隊や国防軍、果ては親衛隊髑髏部隊(強制収容所・絶滅収容所の管理・運営担当部隊)所属だった者から、Uボートの工廠に勤務した女性等、多種多様な側面から当時を回顧する人々。
当時の行いや国家の方針を恥じる人もいれば、誇りを持っている人もいる。この十人十色な歴史観こそ、世界が単純化されず、多様性を持ち続ける原動力であると思わされると同時に、盲目的に同一の方向へ突き進むことで生み出される悲劇的な結果には、"大衆"が持つ力の恐ろしさを突きつけられます。
中国共産党が人民の力を何より恐れるのは、過去の王朝が潰された原因=大衆の力を侮ってはならんと骨身に沁みてるからなんだなと、改めて思ったりしました。

印象的なのは、「罪を認めるか?」の質問について。
多くの場合〈1.知らなかった2.知ってたら決して賛同しなかった3.自分は関係なかった〉の3つの回答のいずれかが返される、との言葉が、取材を受けている老人側の口から紡がれます(事実そのような回答が口々に唱えられるわけですが)。しかし、そう自覚している老人ですらも、「この話はもう終わりにしよう」と逃げてしまう。誰一人として、すんなりと認める者はおりません。
心情を慮れば、確かにそう答えるのは、仕方ないことでしょう。罪の意識は、心に重くのしかかり、贖罪は永遠に終わらないものです。その上、キリスト教的価値観を有するであろう高齢者達ともなれば、今更どうすることもできないというもの。ましてや、エリートであったという自負があれば、なおのことでしょう。
「自分がその場に居合わせたら」の話も、社会の歯車として生きる自分に重ねてみると、背筋が凍る思いです。

それゆえに、決して擁護しているわけではありませんが、自分では断罪することもできません。行いが悪であったことは間違いないからこそ、この獰悪極まる地獄の沙汰に、何をぶつければいいのか……。
ビル群を一人歩く帰路にて、悶々と考え込んでしまいました。
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