バイルズ選手や大坂選手以前の2012年にメンタルヘルス問題を告白したテニスプレイヤー、マーディ・フィッシュの苦悩に迫ります。 程度の差はあれど誰でも抱えている心の問題。 華やかに見える世界の裏側で選手はどんな葛藤を抱えているのか。

未だに毎日が闘い、でも毎日僕が勝つってかっこよすぎる。大坂なおみ選手も本作を勧めたそうですが、スポーツ選手とメンタルの悩みって一般人からするとどうしても体感(想像)し難い部分がある。でも少なからず仕事(≒スポーツ)と同じような部分はあって、そう考えると人間にかかるみえないストレスって本当に"見えない"ものなのだな、と実感出来る。大丈夫だと感じていても何時か爆発するのでガス抜きは忘れずに。

サンプラスやアガシといったアメリカの黄金時代の再来を期待されたロディックとフィッシュがプレッシャーの中で4強にどう立ち向かっていくかという話。
個人的に5-4のマッチポイントをサービスエースで奪われたポイントが試合の全てを変えたところは共感しかない
トップ10に入れるかどうかは攻撃的な野心を持てるかどうか

大坂なおみがインスタのストーリーで「みんな見たほうがいいやつ、特に若いテニス選手は」って数日前に言っていたので素直に見る私。若くもないし、テニス選手でもないけれど。

メンタルヘルスを優先したいから全仏オープンの試合後記者会見には出ません、って発言を境に世界中でバッシングが始まった大坂なおみの2021年、その一部始終をファンとして記憶していますが、かろうじて哀しいことばかりでもなかったと思えるのは、彼女の発言の勇敢さを称える声も少なからずあったから。

本作の主人公、マーディ・フィッシュもメンタルに問題を抱えていた、と診断が出た2年後ようやく公表するのですが、その前段の話し合いの思い出を両親が語るシーンがありました。
「みんな相当迷ったよ、アスリートにとって精神的な弱さを公開するのは決してほめられたものではないから」

たしかに『パワー・オブ・ザ・ドッグ』(2021)もそういう話だったしね。社会が許さない・どこにも明文化されていないけど、って意味ではアメリカの業の深さを伝える作品でもある。

なお、全豪オープン前哨戦の試合後記者会見で本作の感想を聞かれたなおみ姐さん
「マーディとは何回か会ってるので逆に躊躇してたの。ドキュメンタリーを見たせいで次に彼と会ったら変な接し方になっちゃうのもイヤだし」
「でもエージェント以外に、テニスに関係ない友人からも見た方がいいよ、っておすすめされたから見たのね」
「試合中に突然世界が停電したみたいになって、思考がワーって自分に流れ込んでくるみたいな経験をした、そこから後の試合内容はまったく覚えていない……ってマーディが表現していたシーンがあったんだけど、あ、なんか分かる。分かるけど私はそんなふうに上手に表現できないわー、って」

このドキュメンタリーを見てはじめて「メンタルヘルスの問題ってそういうことか」って腑に落ちるひとも居ると思うのでクドクド言うまいと思いつつ、ミネソタ出身のホワイト・ボーイが語り手なら虚心坦懐に耳を傾けるって、大坂なおみファンとしては実はいろいろ納得いかねえ。