シェイクスピアの古典作品『ロミオとジュリエット』の翻案作品は数多存在するが、この作品は『ロミオとジュリエット』の筋書きや物語を単に踏襲した作品ではない。

映画『ロミオとジュリエット』が撮影されるそばで、ノンフィクションでロミジュリを再現する二人の悲恋物語なのである。


ガラス職人のアンジェラという青年と没落貴族の娘のジョルジアの身分違いの恋を、古典作品『ロミオとジュリエット』の筋書きと作中映画の製作過程になぞらえて描き出している。
この若き恋人たちを、セルジュ・レジアニとまだあどけなさの残るアヌーク・エーメが好演しており、彼ら特にジョルジアの純粋無垢な雰囲気に、二人の恋に対してより同情心がかきたてられる。

作中で映画を撮るシーンにて、撮影のリハーサルのために、アンジェラとジョルジアがそれぞれロミオとジュリエットの代役をと務めることになる。
それをきっかけとして彼らは、ロミオとジュリエットに感情移入をして恋に身を捧げていく。
とはいえ彼らの恋模様が、戯曲やこの作中劇のようにすべてがドラマチックに演出されるわけではないのだ。

例えば、アンジェラとジョルジアが一目惚れしたときはシンプルな演出である。
ボイスオーバーやドラマチックな音楽や、大げさなクロースショットやズームなどを施さず、恋に落ちた二人がただ呆然としている様子をカメラは引いた位置からとらえているだけである。
照明の眩しさで顔を覆う動作がうまく機能していて、直前までアンジェラはジョルジアだと気づかないし、彼女も彼の顔を直前まで見えていない。
そのため撮影現場という多くの人と顔を合わせる場であっても、一目惚れという衝撃が、まさに雷に打たれたように一瞬のうちに起こることが可能となるのだ。

その後、舞台から降りてカメラの外で再び見つめ合う二人は、恋愛のスタートという多幸感に浸りながら彼らだけの世界の構築を仕切り直す。
ここでは二人のクロースショットが交互に長い時間映し出され、キスの際には彼らがシルエットとなるという、観ていて恥ずかしいほどベタな演出がとられている。
つまり実際に恋する者たちにとっては、どんなに豪華でムードのある装飾が自分たちを囲んでいることよりも、ふたりきりで幸せを感じられる空間のほうがずっとロマンチックなのだろうか。

さらにアンジェラとジョルジアは、結婚のシーンの代役も衣装をちゃんと身に着けて挑む。
そこで監督は幸福なカップルを祝福する言葉を次々とかけるため、余計に彼らの気持ちは盛り上がるのである。
そのため若い二人は本当に結婚したかのような感覚を覚えて、一時の幸福に浸るのである。
彼らはまさに、名作『ロミオとジュリエット』の疑似体験をしている。

そしてこの作品は『ロミオとジュリエット』の一応の形をとることで、貴族社会への痛烈な皮肉を投げかけている。
戦争でおかしくなってしまったアメデオや酒漬けの父、笑い上戸な祖父など、クレイジーな家族と住むジョルジアを救い出す、貧乏な青年という構図は、貴族社会や階級差への皮肉にとらえられる。

名作をメタ的に捉え直し、ブラックコメディ要素を付け加えつつも、ちゃんと最終的には原作のように悲恋物語として落とし込まれている作品である。

アヌークエーメのお誕生日に鑑賞です。

プレヴェールのセリフは、私のようにボンヤリと観ている者もハッとさせてくれる素敵な魔法の言葉みたいな雰囲気があります。

今読んでいるピエールバルーの本で（やはりバルーは魔法の言葉に魅せられた1人でした）あらためてセリフの詩的な美しさに感激しました💖

赤いラナンキュラスのような、アヌーク・エーメの可憐な美貌に釘付けです。
アンジェロが実は女たらしでなかなかのク◯だし、ジョルジアの家族もいろいろ問題ありで、単なる悲恋ものでないところが、この作品の特徴かな。