今回も工藤梨穂監督による手法がヒットしている。『裸足で鳴らしてみせろ』では録音という手法で現実世界と録音によって表現される世界の違い、読み替えを描いて見せたが、本作では読み替えの王道であるスケートボード、そして主人公の譲の仕事であるサクラ的に代理出席する仕事で街並みを、そして人生を読み替えることを表現した。
原色の服を纏う彼が、これまでの人生に大きく無かった色を加えて、また8月に見たくなる爽やかさと未来へのちょっとした希望を持って劇場を出られる。

冬の中短編「ハイパーボリア人」「名前のノート」「オーガスト・マイ・ヘヴン」感想
https://tea-rwb.hatenablog.com/entry/2025/02/08/123000

40分とは言え抜かりのないショットが連なってて良いんじゃないすか、知らんけど。小物使いは流石のもんだし嘘から始まる関係性の中で新たな「私」が規定され関係性そのものが変節していく。幸福の黄色いカイトがこの先3人の上でどう羽ばたくか、鈴木卓爾の酢豚は無事届けられたのか気になる。

【嘘から始まる旅路】



これは内容というよりかは､雰囲気が勝っている短編だなと感じた｡

"代理出席屋"をしながら暮らしている女性が､中華料理店で働く友人の男とその親友であり､女性が夢で見たという男性と､奇妙な旅に出るという物語だ｡
夢で見た男性と主役の女性は女性が代理出席した葬儀場で出会い､男性は彼の友人である"「いづみ」という女性と勘違い"している｡男性もしばらくとある理由で音信不通で､それぞれの経過も当然知らずにいた｡
違うとなかなか言い出せない女性と中華料理店の男…言い出せないまま女性は2人についていく形で､いづみのフリをして奇妙な旅路に出るのである｡

本作の配給は､昨年公開された黒沢清監督の中編映画「Chime」と同じく､墨田区菊川に在籍する映画館兼カフェ「stranger」｡「Chime」同様にベルリン国際映画祭に出品しており､この「stranger」の配給する作品には今後も注目だなと感じた｡
配給作品第二弾である本作の監督は､"工藤梨穂"という方｡存じ上げなかったのだが､デビュー作・そしてその後の商業デビュー作で連続で海外の映画祭で高く評価されている方らしく､ポスターの雰囲気からも良い雰囲気を感じるので今後も注目である｡

さて､本作を見て感じたのは本作は限りなくアジア映画だなと感じた｡中国や台湾､タイやインドネシアなど､そこまで煌びやかに感じなくとも､夏の気候や服装､そして食べ物などで雰囲気を煌びやかにする…そんなアジア的な魅力が詰まった短編だった｡監督はさぞ､エドワード・ヤンやウォン・カーファイなどから影響を与えたのだろう｡
本作は女性の「嘘」から始まっていながらも､最終的にはそれが新たな出会いと人生を予感させる"ステップアップ的なポジティブ"な要素を感じたのだ｡いづみになりきる女性・いづみだと思い込んでる男性・それを複雑そうに見つめる男性…これらを交えた後の着地の仕方がなかなか好みだった｡

しかし､それでも描き方が少々分かりにくかったのが残念だった｡男性がなぜ女性をいづみだと思ったのか？女性と中華料理店の男は具体的にどんな関係性なのか？…これが分かるとよりハマったのだが､短編なのでそこまで描かず､「ご想像に任せる」という形なのだろう｡

とはいえ､私は本作を見て工藤監督の前作を見たくなった｡単純に雰囲気が好きだし､他の2作もハマる部分があるのだろうなと感じた｡そんな工藤監督に出逢わせてくれた､strangerには感謝しかない｡