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劇場版 アナウンサーたちの戦争の作品紹介

劇場版 アナウンサーたちの戦争のあらすじ

太平洋戦争では、日本軍の戦いをもう一つの戦いが支えていた。ラジオ放送による「電波戦」。ナチスのプロパガンダ戦に倣い「声の力」で戦意高揚・国威発揚を図り、偽情報で敵を混乱させた。そしてそれを行ったのは日本放送協会とそのアナウンサーたち。本作は、戦時中の彼らの活動を、事実を基に映像化し、放送と戦争の知られざる関わりを描く。

原題
公式サイト
https://thevoices-at-war-movie.com
製作年
2023年
製作国
日本
上映時間
113分
配給会社
ナカチカピクチャーズ

『劇場版 アナウンサーたちの戦争』に投稿された感想・評価

ぶみ

ぶみの感想・評価

3.0
言葉を信じて、言葉に絶望した。

一木正恵演出、倉光泰子脚本、森田剛主演による実話をベースとしたドラマで、昨年8月14日、NHKスペシャルで放送されたテレビドラマの劇場版。
太平洋戦争下、ラジオ放送による電波戦を繰り広げた日本放送協会のアナウンサー等の姿を描く。
ドラマ版は未鑑賞。
主人公となるアナウンサー・和田信賢を森田、同じく日本放送協会のアナウンサーを橋本愛、藤原さくら、大東駿介、遠山俊也、中島歩、高良健吾、古舘寛治、安田顕、浜野謙太、渋川清彦が演じているほか、小日向文世、眞島秀和、降谷建志、水上恒司等が登場。
物語は、太平洋戦争が始まる前、実況放送の練習をするアナウンサーや、防空演習をする市井の人々の姿でスタート、その後、開戦を報じる臨時ニュースをラジオ放送で読み上げる展開となるのだが、ネットはもとよりテレビも普及していなかった時代、最新の情報を得るためにはラジオが唯一の手段と言っても過言ではないため、その放送の一言一句の重みたるや、半端ないもの。
次には、日々大本営から発表される情報を伝えるという重大任務を遂行するアナウンサーが描かれるのだが、国民の戦意を高揚させるため、ただ原稿を読むだけではないことに対する葛藤や苦悩を、森田を始めとしたキャストが好演。
そして、日本での放送はもとより、占領地が拡大するに伴い現地の日本化を進めるため、彼らNHKのアナウンサーが赴任していたこと、そして偽情報を放送することで敵対国を混乱させる、所謂「電波戦」が行われていたのは、恥ずかしながら初めて知った次第であり、現代に置き換えれば、SNSでフェイクニュースが瞬く間に拡散され、それに踊らされているのと何一つ違わない。
ただ、本作品を映画として考えると、オリジナルから肉付けがされ二時間にまとめているようなのだが、セット感を隠したり、作り込みが危うい背景を映し出さないようにしたとしか考えられない常に白飛びした映像や、人物のバストアップの多用は、やはりテレビドラマクオリティと言わざるを得ず、また、戦前なのに白地にゴシック体の文字で綺麗に作られた看板があったりと、時代考証として疑問が残るところもありと、総じて豪華キャストに反して映像面ではもう少し頑張って欲しかったなと感じた次第。
国民にとっては唯一のリアルタイムな情報入手手段である玉音放送で終戦を知ることとなるが、全ては「お国のため」として、そのラジオ放送自体が国の息がかかったものであるとするとゾッとするものの、それは何が真実なのかわからない情報ばかりが蔓延る現代でも、本質は変わらないことであり、体制側の隠蔽体質も相変わらず。
アナウンサーという今までにはない視点は、反戦映画として目新しく、前述のように、このようなことを現代に置き換えて、繰り返さないようにするためには何ができるのかを考えるには充分な内容であるとともに、劇場版としてお金を取るのならば、もう少し映像や音響のクオリティを上げて欲しかった一作。

信用のない言葉ほど、惨めなものはない。
ワンコ

ワンコの感想・評価

5.0
【国民はバカじゃなかったと思うこと/今を考える】

映画の終盤少し出てくるが、当時の情報局下村局長が懸念したようなポツダム宣言受諾に対する民衆の蜂起はなかった。

あったのは陸軍将校たちが玉音放送を妨げるべく皇居に押し入った宮城事件と、玉音を放送したNHKに対する妨害行為だった。

太平洋戦争開始から生活が困窮し、どんどん積み上がる訃報に触れ、国民は敗戦を理解できたのだ。

国民はバカじゃなかったのだ。

バカは大本営を中心とした陸軍など一部の連中だったのだ。陸軍将校を皇居に導き入れたのは、皇居防衛にあたっていた東條英機の娘婿だと言われている。

エンドロールでインパール作戦跡が映し出されるが、死の行軍とされたこの作戦を主導した中将(名前は調べればすぐに分かります)は生きて帰国し、戦犯とされたが死刑にはならず、死ぬまで、作戦失敗は兵士がバカだからと言い続けていたらしい。兵站など無策だったにもかかわらずだ。

こんなバカな連中が軍上層部にはおおくいたのだ。

この作品は2023年8月に放送されたNHKのドラマを劇場版として再構築・公開したものだが、NHKが自戒を込めたことは言うまでもなく、ちょうど同じ2023年8月頃、映画「放送不可能 II」が公開されていたことも必然的に思い出す。

この「放送不可能 II」は、安倍政権が礒崎陽輔元補佐官を中心に放送法の解釈を捻じ曲げ、テレビ局に圧力を加えていたことが明らかになり、総務省が解釈について最終的に、”従来の考えを上書き”しますと、”元に戻すのではなく””上書きです”と安倍政権の顔に泥を塗らないように答弁することになった経緯を表したドキュメンタリーで、実はこの頃、テレビ局は表現の自由についてバカな右翼政治家の圧力から解放れつつあったんじゃないかと思うのだ。

もう少し言うと、これに絡んで、立憲民主党の小西洋之議員が入手した総務省内部機密資料をベースにした追求に対し、当時の高市早苗総務大臣が特定のページは捏造だと繰り返し、一部の自民党政治家からも顰蹙を買い、批判されていたあの件のことだと言えば思い出す人は多いだろうか。

内容は、放送の政治的公平性を局の番組の全体ではなく、特定の番組の内容が公平ではないと看做すことが出来る場合、その放送局の免許の取り消しもあり得るとした安倍政権による報道への圧力・介入が存在していたことが明らかになったことだ。

一貫して解釈をめぐり抵抗を示した総務官僚をハラスメントまがいの言葉で恫喝し続けた礒崎陽輔は2023年9月政治家を引退した。安倍政権を主導したクソ政治家の代表格だ。

8月15日、78回目の終戦記念日を迎えた。

安倍晋三を最後に日本の首相は10年以上靖国神社を参拝していない。

韓国や中国はもとより、安倍晋三の参拝についてアメリカのオバマ政権も相当批判的だったからだ。

改めて考えると、礒崎陽輔が放送法の解釈を捻じ曲げようとした大きなきっかけにもなったことのような気がする。

この「アナウンサーたちの戦争」は一体何を問いかけているのだろうか。

こうして製作された2023年の状況や、安倍政権の欺瞞が明らかになっていっていたことを考えると、当時のアナウンサーたちによるプロパガンダ行為の実態や、それに対する反省、戦争における軍部の暴走や悍ましさだけじゃない気がするのは僕だけじゃないだろう。

安倍政権は都合の悪い公文書をシュレッダーにかけたり、官房長官だった菅義偉は会見で厳しい質問を繰り返す記者や報道関係者を無視、場合によっては恫喝さえ躊躇しなかったではないか。

この「アナウンサーたちの戦争」はプロパガンダの手段がラジオやテレビからSNSに変わるなかでの自戒であり、バカな政治には迎合などせず、戦う姿勢を示したものであり、バカな政治のプロパガンダを追求するとの決心を改めて示したものじゃないかと思う。

Twitter(現X)で、自由民主党の特に安倍政権や、安倍晋三に擦り寄っていた維新の会を持ち上げ、一貫して立憲民主党を中心に野党を攻撃、特に立憲民主党の特定の議員には誹謗中傷を繰り返しただけではなく、捏造した書き込みを行って、まさにプロパガンダ行為が行われていた事件を覚えているだろうか。

「Dappi」というアカウントについてだが、東京地裁で行われていた民事裁判では、この投稿を行っていたのは従業員個人だと主張していたWebコンサルティング会社ワンズクエスト(自民党や小渕優子が大口の取引顧客)に対し、業務時間の大半が投稿に充てられていたことなどから「代表の指示の下、会社の業務として行われていたというほかない」と指摘、投稿者が代表自身である可能性も「相応にある」と賠償の支払いを命じた。

これは2023年秋の判決だ。

まもなく自民党総裁選が行われる。

候補者は乱立気味だが、若返りとか論点はボケたままで、プロパガンダへの自戒はおろか、裏金事件の根幹になる企業献金の禁止などに触れる人間はひとりも出てきていない。

安倍政権の下、モリカケ、サクラ、公文書シュレッダーなど隠蔽行為、報道に対する恫喝・脅迫行為、野党に対するプロパガンダ行為、旧統一教会との蜜月関係、裏金事件とクソにまみれた自民党を再生させる総裁が出てくることを僕は願っている。

この作品が劇場版として上映された意味は、実は大きいのだと思う。
netfilms

netfilmsの感想・評価

3.9
 家にTVがなく、人の家に行っても極力TVを見ない人間なので恐縮だが、本作は2023年8月14日にNHK総合テレビのNHKスペシャルにて放送された作品の劇場版映画化だと観劇後に知った。今作は非常に真面目で、骨太な演出にまず心を惹かれた。1941年12月8日、太平洋戦争開戦の第一報に関わったアナウンサーの和田信賢(森田剛)と新進気鋭の館野守男アナ(高良健吾)は、日本軍の勝利を力強く伝え、国民の戦意を高揚させた。同僚のアナウンサーたちは南方占領地に開設した放送局に次々と赴任し、現地の日本化を進め、和田の恩人・米良忠麿(安田顕)もまた前線のマニラ放送局に派遣される。軍や情報局は雄々しい放送を求め圧力をかけ、新人女性アナウンサーの実枝子(橋本愛)は活躍の場を奪われていった。次第に戦況は悪化し、和田は大本営発表を疑問視するようになり、国家の宣伝者を自認する館野と伝え方をめぐり衝突。出陣学徒を勇ましく送り出す実況を任され和田は苦悩し、妻となった実枝子はそんな和田を叱咤する。一方インパール作戦の最前線に派遣された館野は、戦争の現実に直面。そして戦争末期を迎える。

 まずは映画らしからぬ豪華キャストに圧倒されたが、NHKのTV番組からのオファーだと知り、納得した。未だにNHKのドラマでも腐ってもNHKという神通力は持ち合わせている。森田剛も高良健吾も安田顕も、加えて浜野謙太やこの所、元気のない大東駿介も含めてみんなの演技が何だか様になっている。その上、渋川清彦や中島歩も端役ながら見事な演技で僅かな印象を醸す。特にアナウンサーとしての規範を全体に問う中島歩の絶叫にも似た強めの演技に魅了される。また情報局の防波堤として登場した忍成修吾の演技にも魅了される。映画では監督だが、ドラマの場合はあくまで演出としてクレジットされる『おかえりモネ』や『まれ』や『いだてん~東京オリムピック噺~』で知られる一木正恵の演出は戦争映画に新たな視点を与えることに成功している。そもそもNHK開局の歴史の始祖にこのような戦禍が多くの人物のその後を引き裂いた事実に驚く。「虫眼鏡で調べて望遠鏡で喋る」という主人公・和田の新人への深淵なる問いは彼が生涯唱えた言い得て妙なアナウンサーとしての矜持なのだが、それにしては戦火が進んでも常に書斎で酒を呑み、しけもくを吸い続ける主人公の姿にはあまり感情移入出来なかったし、彼が交戦か反戦かどちらの旗頭にも向かなかったという今作の結論にも疑問を持つ。それでも朝倉寿喜(水上恒司)の非業の死の瞬間と米良の最後の放送には思わず涙腺が緩む。

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配給:

  • 東映
3.4

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