
2011年に発生した東日本大震災は、多くの人々の日常を奪い、福島の地に深い爪痕を残した。それから年月が経ち、福島の被災地には、帰還した住民、移住してきた人、仕事や復興のために訪れる人など、多様な背景をもつ人々が混じり合いながら新たな生活史を刻んでいる。 「なにを食べるか」ということは、その人の暮らしや人生、そして記憶と深く結びついている。本作は、福島県の国道6号線(通称「ロッコク」)沿いの町で生きる3人の人物の食卓を軸に、その日常や人生を軽やかに描き出すドキュメンタリーである。 震災から13年が経った2024年、映画監督の川内有緒と三好大輔は、約1年間かけて、東京と福島を繋ぐ「ロッコク」を車で旅し、そこに暮らす人々を訪ね歩いた。キッチンに立つ姿、料理の手ざわり、食卓で交わされる言葉──一人暮らしのキッチンや、大勢で囲む鍋、寒い夜のスープ。どれも震災という出来事を経た土地で育まれた「生活の色」であり、記憶であり、希望の証だ。 物語の主な舞台は、東京電力福島第一原子力発電所が立地する大熊町と双葉町、今なお帰還困難区域が多く残る浪江町、そして南相馬市小高区。 本作では、地元住民の協力のもと、震災以前のホームムービー映像を収集し、映画本編に挿入した。かつての町の日常や家族の風景を映し出した映像は、震災後の再開発や解体により消えつつある「暮らしの記憶」を、次世代へ受け渡す貴重な手がかりとなっている。 食を通して浮かび上がる福島の「いま」。そこに生きる人々の複雑で温かな日常を映像に刻む。キッチン越しに見えてくるのは、暮らしと記憶のアーカイブである。