アン・リー監督が『ブロークバック・マウンテン』から2作連続でヴェネツィア金獅子賞を獲得したラブサスペンス。
「愛しい人よ。私は糸であなた針。針に糸を通したら二度と離れない。」
アン・リー監督は、2作連続で禁断の愛の物語を語った。前作『ブロークバック・マウンテン』はカウボーイ二人の同性愛、本作では抗日組織の女スパイと、その暗殺対象となった抗日組織の弾圧を担う特殊機関員との愛。どちらも悲愛物語だった。
静と動の対比が効いた、繊細かつ大胆な恋愛描写が興味深い。
◯"動"。これまでに見てきた映画の中でトップレベルに激しいセックスシーン。まさに"Lust(色欲)"。暴力的な拷問をしているようにも、情熱的に深く愛し合っているようにも見えた。いつ命を狙われるか分からない疑心暗鬼の暗闇世界を生きる男イーにとって、セックスをしているときだけが確かな"生"を実感できる時だったのだろう。「身も心も投じれば私も彼の心に入れる」というワンの言葉があったように、相手を激しく求め合い、心を許すに至ると上下が逆転する。セックスシーンが、2人のパワーバランスや互いに対する信頼度合いを物語っていた。
◯"静"。一番印象に残っているのは、ワンとイーのレストランでの会話シーン。前半は画面の右側にトニー・レオン、画面の左側にタン・ウェイだが、蝋燭の火をもう1つの蝋燭に灯すカットを挟んで、後半は二人の左右が逆転する。鮮やかだった。とても勉強になった。
「ダイヤには興味がない。君がつけた姿を見たいんだ。」
やはりトニー・レオンは名俳優。特に、"目"の演技が絶品で、"目は口ほどに物を言う"を完璧に体現する俳優だ。本作では、傷付きやすい孤独な男と、凶暴な"モンスター"という2つの顔を見事に演じ分けている。紳士的なを武器に、蛇🐍のように静かに忍び寄り、獲物に襲いかかる姿は鮮烈だった。過去1怖いトニー・レオンを目撃した。
(以下ネタバレを含む)
「私はあなたを想い続けている。苦難を共にした者は愛で結ばれる。」
党、指導者、祖国への忠誠心か、それとも禁断の愛か。結果的に、ワンは両者を裏切ることになってしまった。最後に自ら薬💊を飲まなかったのは、同士達と最期を共にしたいという意思の表れなのだろうか。それとも、イーに直接罰せられたいというせめてもの贖罪の想いからだろうか。
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