なんかめっちゃトー横キッズみたいなことやってるぅ…とげんなりしつつどこが映画館の恋やねんと思っていたらちゃんと映画館の恋が始まるわけだけどそっから先も絶妙に気持ち悪くてホン・サンスだった。結局現実と虚構とでどっちがどっちを侵食してんのかも曖昧だが、そこにニョロニョロっとズームしていくのがホン・サンスなのであって、ただ嘘ばかりが積み重ねられていっても先輩の死だけは覆すことが出来ない。セルフ点滴の馬鹿すぎる絵面に笑った。

構造的な面白さはあったけど、まぁそれだけかなとも思ってしまった。

必然があまり感じられない不意のズームは既にこの頃からやってたみたい。

ホン・サンスの初期作。タイトルからして現代の若者の恋愛劇と思っていたが、全然違かった。というか、かなり重い。『豚が井戸に落ちた日』も割とビターな感じだったし、ホン・サンスの根底には、暗さがあることがよく分かる。

以下、ネタバレを含みます。

大学受験に失敗した彼は、兄にまとまったお金をもらって街をふらつく。ぶらぶら歩いていると偶然、中学の同級生(？)の彼女に出会う。彼女は高校を辞めて、知人の会社で働いているそうだ。彼らは再会を喜び、夜ご飯を食べる。そしていい感じになって、安宿に行くことになる。二人は結局、セックスはできず朝を迎えてしまうのだが、何を思ったのか、心中するために街中の薬局屋を駆け回る。

現代の若者の恋愛劇と思いきや、死の逃避行が語られることには驚いた。彼が大学受験に失敗して、未来が不透明な絶望は、当時も今も韓国の若者にとってあるのかと思いながらみていた。

結局、彼らの心中は失敗して、彼は家族の元へ帰る。そして母は、自殺未遂をするほど絶望した彼の心情を理解せず、むしろ迷惑をかけるなと怒る。そんな態度に彼はまた絶望し、自宅のマンションの屋上から投身自殺をするのだった。

正直、この自殺未遂までの展開はテンポが急すぎるし、彼と母の喧嘩の様はドタバタしている。そして簡単に絶望して再び自殺を決意するのも早すぎるだろと思ってしまった。

ホン・サンスもやっぱり初期はつくりが甘いなと笑っていたら、意外な展開。今までみていた物語は劇中劇だということが明かされる。
この劇中劇の作り手は主人公の彼で、闘病中である。それがきっかけかどうかは不明だが、特集上映が組まれて映画館で劇中劇が上映されているのだ。そしてこの劇中劇の元となった人物であり、映画監督志望のドンスと、劇中劇に登場した女優の彼女が映画館で出会い「恋」が始まっていく。

あの劇中劇の下手さ加減が意図されていたことに驚いたし、ホン・サンスは初期からセンスが抜群だと恐れ入った。ただこの「恋」はかなり気持ちが悪い。

ドンスが女優に猛烈にアピールして執着しているのは気持ちが悪いし、なのに二人はセックスをするし、男に都合が良すぎるのはどうかと思う。結局、闘病中の映画監督とのドラマは空中分解するし、劇中劇を使った物語構成の突飛さだけに留まっている気がする。

だが劇中劇の彼と彼女の間には、恋人関係では名伏しがたい、死を共有した深い愛の関係があったことは窺えるし、それが悲劇にしかならないことは、本作が示した通りである。

その事実に私も簡単に絶望してしまう。しかし愛が死よりも冷酷でも、愛を選びたいと思う。

蛇足
劇中劇で彼が夜ご飯まで彼女を待っている間も街をぶらつく。そして彼が演劇のポスターを眺めていると、カメラはポスターの寄りになり、再び引くと彼はいなくなってしまう。この描写によって、彼はとても興味がないじゃんと思いきやちゃっかりみている。それにも笑ってしまった。

上述のようにカメラワークも遊んでいてとても好感がもてるのだが、バカズームもやっていて驚いた。『豚が井戸に落ちる日』ではやっていなかったから、尚更。ではホン・サンスはいつからバカズームを採用しているのか。それを知るためには『女は男の未来だ』をみなくては。

ドンスと女優がセックスすることは理解しかねるが、そうはいっても登場人物の身体の距離は近いんですよね。それは似たような作風の今泉力哉監督作品と比較しても明らかだと思う。